第19話 買い物って怖いね
そうだ、気をとり直して今の時期の採取情報とか教えて貰おう。何かいいのあるといいけど。
「そうですね。初心者の薬草採取なら東の草原がいいです、一番魔物も少ないですし。討伐中心なら北の森か、西の森から山にかけてですね。あまり奥まで行かなければ強い魔物は出ないです。南の森は上級者用で危険ですし、その奥にダンジョンがありますが、これは八級に昇級後にまたお話ししましょう」
周辺の地図を指差しながら一つひとつ丁寧に説明してくれる。
討伐依頼より採取依頼の方が人気がなく、ほぼ凍結されているものまであるらしい。
見せてもらうと、一番古い依頼で一年前のまであった。
「これで依頼料がもう少し高ければここまで残らなかったと思うのですが、これ以上は支払えないという依頼主様が多くて」
他の街から取り寄せる事も出来るけど、割高になるのでとても無理とのこと。気長に待つしかないらしい。
なんか共感してしまう。私も今お金ないし。
けど、まずは自分の生活が一番大事だから、余裕が出来たら考えよう。エドさんも困ってるしこういう依頼をこなしてたら信頼してもらえて、いい依頼情報を教えてくれるかもしれない。
しかし情報が多すぎて、まずどれを選べばいいのやら。そこら辺も相談してみた。
「そうですね。この街に採取中心に活動しているエルフの冒険者はほぼいませんので、ローザさんに一番お薦めなのはこちらです」
北の森にあるという巨木群を指した。
討伐と採取依頼が年中あるのは他といっしょだが、巨樹の採取依頼は人族が苦手としているため競争相手がもっとも少ないとの事。
薬樹や木の実、果実の種類も豊富でいい狩場だが、街から少し遠いのと、やはり巨木群でも採取依頼には変わりないので依頼料は安いものが多く、危険を侵してまで行きたがらないかららしい。
人族と縄張りが重ならないというのはいいよね。余計なトラブル回避できる。
ギルドの資料室で、もっと詳しい情報が得られるとの事で、後で利用しよう。
お薦めの宿屋も聞いてみた。希望を聞かれたので、女性が一人で泊まっても安全で、設備はそこそこでいいので安いところがあればと伝える。
「安い所なら大銅貨2枚からありますが、大部屋で雑魚寝なので女性にはちょっと……安全に安くとなると、そうですね、こちらがお薦めです。少しお高くなりますが、一泊朝夕食事付きで大銅貨7枚です。実はこちらで働くギルド職員の実家でして、安全も保証しますよ」
地図を見せて貰うとギルドから徒歩で三分の近さだった。
銀貨1枚以上ならどこでも安全で設備も充実しているらしいけどさすがに今そんなところに泊まれない。
他にもいくつか聞いて安全性を重視するなら、ここが一番よかった。想定してたより随分お高かったけど。
飛行型の魔物を警戒して、三階建て以上の建物は基本建設禁止だし、城塞都市限られた土地しかないからこの値段は仕方ないそう。
特に壁に囲まれた土地の値段は高いから、宿代もどうしても高くなってしまうのだとか。そういう事情なら分かる、しょうがないよね。
「ありがとうございます。そこにします」
時間を気にせずいっぱい相談出来たし、ギルドが暇な時間帯に行けてよかった。
エドさんにお礼を言ってギルドを出た。
◇ ◇ ◇
宿屋は大通りから一本入った所だったが、近いし迷わずすぐにたどり着けた。
「いらっしゃい!」
紹介されたそこは元気のいい女将さんが切り盛りする宿だった。
「こんにちは。ひとりで一泊なんですけど空いてますか?」
「一人部屋だね。大丈夫っ、空いてるよ!」
説明を聞いたら朝夕食事付きで大銅貨7枚、素泊まりはやっていないらしい。
十日分前払いだと一階にあるお風呂の使用料を無料にするとのこと。
とりあえず二泊分だけを支払う。やっぱり今の懐具合だとどうしてもお高く感じてしまうけど安全には替えられないもんね。
お風呂は銅貨3枚の使用料で使えること、簡易炊事場や洗濯場、外には井戸もありどれも無料で使えること、トイレは各階にあり共同で使用することも説明を受ける。
これで所持金は270シクル。ここから必要なものを揃えなくてはいけない。
部屋に置くほどの荷物もないし、直接買い物に行くことにしますか。
「近くにおすすめのお店がありますか?安く装備品を整えたいんですけど」
「そうだねえ、それなら……」
女将さんはカウンターの下からこの街の地図を出してきて、条件に合うお店をお宿の近くから順に教えてくれた。
さすが冒険者相手の宿、詳しい情報を持ってる。
雑貨屋、鍛冶屋、香辛料のお店など一通りお薦めを教えて貰った後、さっそく出かける事にした。
まずは雑貨屋。
冒険者相手のお店らしく品揃えはとっても豊富。お店の隅には中古品を安く売ってるのでそちらを中心に見る。
袋物はもうあるので、革製のしっかりした背負子と簡単な裁縫道具や調理器具、ロープなど、色々まとめ買いしたら、少しおまけして貰った。
それでも105シクル。結構高いなあ。
次はお隣にある香辛料のお店。
5シクルで買えるだけの塩を量り売りしてもらう。
砂糖や胡椒なんかに比べれば塩は比較的安い。
岩塩の種類も豊富だし、魔法を使って海水から塩を大量に生産し転移魔法陣で主要都市に届けられるシステムが整っているらしく、過剰供給で値崩れしないよう管理されてるからみたい。
日本で買うとちょっとお高めの塩ぐらいの値段な感じ?
次に少し離れた衣料品店へ。
ここで買うのは皮手袋と下着。着替えも欲しいけど『浄化』ですぐきれいに出来るので我慢する。
皮手袋は採取する際の必須アイテム。
本当は魔道具屋で付与魔法付きのものを買いたいけどやっぱりお金ないし諦める。
一応魔物の皮で出来た頑丈なものを選んだ。
次は鍛冶屋。
残りのお金は銀貨1枚、約一万円分ある。護身用に革鎧とかも欲しいけど、これだけだとさすがにナイフ一本分ぐらい? 武器の値段ってどれくらいなんだろ?
全部使ってでも出来るだけ多目的に使えそうな、頑丈でいいものが欲しい。
いっぱいあって良く分からなかったので、店主の親父さんにこちらの希望を伝え、お薦めを聞いてみた。
「討伐にも採取にも使えるとなると、もうこれしかない。初心者なら金もあんまないんだろ? こいつにしとけ」
一本だけ持つならと万能ナイフを薦められた。
全長30センチ、幅広で両刃の片側がノコギリ状のやつ。
短剣としても使えるし、スコップや鎌代わりにも使えるとの事。
これはいいね! もう買うしかない! いくら?
「こいつは銀貨10枚だ。安いだろ? え、高い? 予算はどんぐらいなんだ」
「銀貨1枚です!」
「……まあ駆け出しならしょうがないか。そんならこっちから選べ。中古品だがまあまあ使える」
店の隅の箱に無雑作に突っ込まれている中古品の中から、万能ナイフだけ選んで持ってきてくれた。
「ありがとうございます。結構いろんな大きさがありますね」
「ちょっと持ってみて手になじんだやつを買ったらいい。結構重いやつもあるからな」
親父さんからいろんなアドバイスをもらいながら、感触を確かめていく。
同時に『鑑定』してみて、その中で中古でもいい状態で買えるものが一本あったので、さっそく購入してしまった。
「今度来るときはもっといいやつ買ってくれよ!」
親父さんがお金を受け取りながら、にやっと笑って発破をかけてくれた。
「はいっ、稼げるように頑張りますね!」
いやー良い買い物をした!満足満足!
いやとっても満足してますよっ、でもですね!もうお金ないよ、全部使い切っちゃった!
はわわっ、どうしよう、あるのは大量の水玉茸と少しの果物と木の実だけ!
あっという間に又、無一文になっちゃっいました!!
どうする私!?
いつもお読みいただきありがとうございます。




