第18話 基本は常設依頼で
昇級や違反数についても説明を受ける。
九級に昇級するのに必要なポイントには、100ポイント。
違反数は依頼に失敗して違約金を支払えない時や、報告義務を怠った時につき、10ポイントを越えると降級処分か脱退処分の対象になるとか。
信用第一らしく、そこら辺は思ってたよりもずっと厳しい。
「それからギルド会員の会費を毎月、銀貨1枚お支払いいただくと、その月の解体料金が無料になるサービスをしています」
へえ、それいいかも。解体って時間掛かるし、スプラッタ苦手だし。
「さらに、文字の読める皆さんにはこちらの討伐・採取常設依頼一覧表を、本来なら銅貨5枚で販売するところ、無料でお付けします!」
お兄さん、エドさんが見せてくれたのは小冊子。
依頼期間や金額などが書かれたもので、何枚もある。様々な種類の依頼があって、これなら仕事に困ることもなさそう。
この情報誌は毎月、月始めに一回更新して発行されるそうで、毎月の会費の支払に併せて受け取れるとの事。
「それに加えて、討伐・採取に必要になる、大きくて丈夫な作業用の革袋、これをどこよりもお安く、ギルド会員価格の銅貨5枚でお買い求めいただけます!今なら小さめの採取袋もひとつオマケに付けますが、どうですか?」
……なんかエドさんキャラ変わってきてませんか?
テレビショッピングのお兄さんにしか見えなくなってきたんですけど。
でも、エドさんの軽快なトーク力にやられた訳じゃないけど、確かに会費を支払ったほうが色々お得なのは分かった。
必要経費だし、ここは魔石の買取の査定と併せて精算をお願いしておく。
冒険者ギルドのことについても色々と説明を受ける。
特にこの討伐・採取常設依頼一覧表について……。
以前はギルド内の掲示板に依頼票が貼り出され、割りのいい依頼を求めて朝早くから並んでいたが、混雑もすごく揉め事も絶えなかったらしい。
ギルド職員たちもその被害を被り、各地のギルドで同じ問題が頻発した為、やり方を一新し、統計をとって常設依頼を増やすことにしたみたい。
それによって常設依頼は等級関係なく受けられ、昇級のための強制依頼以外は自由に選べるようになった。
一応、ギルド推薦の依頼難易度が書かれてはいるので死にたくなければそれを目安にして下さいと言われたけど。
この改革によって冒険者の死亡率は確実に上昇したけど、ギルドとしては説明責任は果たしているので、あくまで本人の自己責任に任せる方針らしい。
その結果、日々確認した方が多少お得になるのは報償金の変動ぐらいになった。
ギルドの外にある掲示板に、変更時だけ張り出されるけど、それも駆け出しで収入の少ない冒険者以外、ほとんど気にならないぐらいの差額だから、見ない人も多いらしい。
もちろん今も以前のように、緊急の討伐・採取依頼は貼り出される。
けど、報償金は高額でもその内容が厄介な場合が多いので敬遠されがちで、結局ギルドからの指名になる事が多いみたい。
護衛任務はそもそも傭兵ギルドの仕事だからこっちにはほとんど回ってこないし。
そんな訳で、朝早くからギルドに行く必要がほぼなくなり、朝の暴力的な混雑が解消された。
ただ、街中の依頼は日雇いが多いから別。安全で確実に収入のある、堅実な依頼を受けたい場合はやっぱり取り合いになるからね。
今、朝早くからギルドに行くのはこういう人たちみたい。
「最後になりますが、十級の皆さんに必ず毎月一度はしていただきたい強制依頼があります。スモール・ワーム十体の討伐です」
スモール・ワームは、果実が大好きな30cm程の巨大なイモムシで、さほど早く動けず比較的おとなしい魔物。
買取価格がとってもお安く、報奨金があっても受けてくれる冒険者が中々いない。
その為ギルドでは十級冒険者の強制依頼にして、一ヶ月に10体狩らないと違反ポイントを付けるようにしたらしい。
き、厳しい!
「ただ、街中の依頼を中心にされている方には救済措置があって、50シクル支払えば免除されます。これは普段街の外で採取中心に活動される方には適用されませんのでご注意ください」
今の季節なら、実のなる果樹があまりなくて、同じ木に群がっている事が多く、討伐数が稼げる。
ここでまとめて討伐しておくと来月以降に繰り越しができるのと、昇級ポイントも5ポイントと高いので頑張ってくださいと言われた。
「それとこれは強制ではありませんがスライム討伐の講習会を受けることをお勧めします」
達人による「上手なスライムの取り方」という講習会が一ヶ月に一度開かれているらしい。
参加するだけで冒険者ギルドから50シクル支払われる上に、昇級ポイント10点が貰えるとか!それってすごくない?
確か、さっき貰った討伐の小冊子には、ゴブリン十体で1ポイントって書いてあったよ、比べると明らかに高いよね!?
「スライムってそんな強い魔物でしたっけ?」
「いえ、ご指摘通り弱い魔物なんですが、素材として確保するとなると難易度が上がるんですよ」
聞けば、普通は魔石を獲ると水みたいに体が溶けて消えるそうだけど、上手く獲ると溶けずに素材として利用できるようになるとか。
スライムの素材は年中品不足なので、是非参加だけでもして欲しいと言われた。
他にもお金を払えば冒険者としての技能を教えてくれる、ギルド職員の講習一覧表が掲示板に貼ってあるので利用してみてくださいとのこと。
これは、常設依頼中心へと制度が変わり、ギルド職員の業務が減った事を利用して始めたそう。
上昇した冒険者の死亡率を下げる事にも繋がり、実際、徐々に結果も出てきて冒険者にも好評らしい。
こうして説明してもらっている内に、買取の査定が終わった。
「お待たせしました。こちらが、魔石の買取分から、今月のギルド会員費と革袋の代金を引いた残りです。全部で395シクル、昇級ポイントは7ポイントです」
お金を入れたトレーが目の前に置かれる。
それと共に差し出された、魔方陣魔法を刻んだミスリル板。その上に左手をかざすだけでふわっと魔力が流れ込んできて、昇級ポイントの登録も終了した。
これで朝の残りと併せて全財産は410シクル。
よかった、稼げてないけど数日はなんとかなりそう。
へえ、ゴブリンは1体で大銅貨1枚になるんだ。日本円だと1000円ぐらいかあ。命懸けで戦ってこれじゃ安いよねえ。
でも、今回の買取からギルド会員価格を適応をして報償金を出してくれてる!
十体で大銅貨1枚の報奨金が出るから、三十体以上あったので報償金だけでも、別額大銅貨3枚ある。
こうゆうことなら端数は出さない方がお得だったような……いやでも今はそんな余裕ないし、しょうがないか。
常設依頼には、こういった単価の安い弱い魔物も多い。
討伐料が安くて受けてくれる冒険者が少ないので報償金を上げて対応しているらしいけど、それでも中々厳しいみたい。
派手に冒険して一発デカイのを当てたいと夢をもって冒険者になるのであって、基本、こうした下積み依頼はカッコ悪いとしてしたがらないらしいから。
ギルドでも困っているようで、今回、特にポイズンラットの魔石を持ってきたの事を、とても喜ばれた。
これも常設依頼で、十体の討伐料はゴブリンの半額だけど、報償金と昇級ポイントは二倍支払われる。それでも安いけどないよりはマシだよね。
こまめに駆除しないと手に負えなくなるまであっという間に増殖してしまうんだとか。怖い。
あれがいっぱいって想像したくないよ!今度からは見つけたら即討伐しようそうしよう。
いつもお読みいただきありがとうございます。




