第15話 初めての共闘
◇ ◇ ◇
ここからボトルゴードの町までは街道を歩くことにする。
森の中より魔物が出ないという意味では安全だし。
薄暗い森の中と違って見晴らしもいいし、ぽかぽかとした日差しが気持ちいい。
先ほどの人族の村での反応を視るに、外套で体型と耳を隠してパッと見エルフの女性と判らないようにすればひとまず大丈夫そう。
今まで足場の悪い森の中ばかり歩いてきたから、こうやって街道を通るとちゃんと舗装されててやっぱり歩きやすい。
等間隔で光り石が埋め込まれてるから、距離の目安にもなるしね。
『俊足』スキルがあるし、軽くジョギングする速度で流して走っているけど、進み具合が全然違うし楽。
この調子だったら予定より早くボトルゴードの町に着くかも! どんな町かな、住みやすいといいなぁ。
快調に飛ばしていたその時、森が街道沿いまで押し寄せて来ているような場所を通りかかった。
……なんか嫌な感じがする。
今まで見通しの良いところを進んで来ただけに、やけに圧迫感を感じちゃうよ。
嫌だなぁ、こうゆう時ってなんか出てきそうじゃ……うわっ、ほら出た、言わんこっちゃないっ。
フラグ回収早すぎ!
『索敵』に一つ表示されたと思ったら、あっという間にあっちこっち現在進行形で真っ赤に塗り潰されていってるしっ。
これゴブリン?
……間違いない、森の中に先頭の姿がちらっと見えた!
それもゴブリンの団体さんがいっぱいとかっ! どうなってるの!
三、四……五つの群れが来てるっ。
今はバラけてるけど個体数多めのもいるし、こいつらの進路ってまさか……集結場所ってもしかしてここ!? だったらヤバすぎるって!
段々寄ってきてるよ、これ一人じゃ無理~!!
私の得意戦法は奇襲、不意打ちのみだから~! 真正面から戦ったことないし囲まれたら死ぬって。なんたって武術スキル0で接近戦最弱だから!
とりあえずダッシュで少しでも囲みの外へと逃げる。
うわっ、追いかけてくるっ。
足の速さはこっちが勝っているけど、魔法を打つのに足を止めたらすぐ追いつかれる。
どこかゴブリンが登ってこれないような木の上に登らなきゃ。幸いここには木だけは選び放題、無駄にあるから。
フルでダッシュして距離を稼ぎ、なんとか囲みを抜け、扇形ぐらいに引き伸ばしたところで一番手近で高そうなのに素早く登る。
ここから反撃するしかない。ゴブリンって木登り出来たっけ?今は出来ないことに賭けよう。
では早速……。
『火炎噴射』!
よしっ、先制攻撃成功、着弾したっ。
今できる一番派手な大技を放つと、さすがにちょっと怯んだのもいるみたいで、近寄って来ずに周りをうろつき様子を見ているだけの個体も出てきた。
特にリーダーとか、上位個体とかは居ないっぽい? 群れ同士で連携して襲って来ることはなさそうな感じ。
だったら手を出してこない今がチャンスだ、この隙に魔法をたたみかけて更なる混乱を招いてやる。
一匹ずつ確実に殺るとかしなくていい。まずは戦意を喪失させることが先決。
真っ先に逃げておいてあれだけど、こっちが格上だって、手を出しちゃいけない奴だって虚勢でもいいから思わせてやる。それで逃げてってくれたら……。
幸いまだ魔力は満タンだし、おやつ代わりにMP微量回復効果付きのパンの実やポポの実をモグモグしてたばかりだから残量を気にせず撃てる。支援魔法の『MP回復』もかけてあるし。
集団には『火炎噴射』を、バラけているものには『火矢』を放って牽制しつつ、囲まれないように注意しながら、途切れることなく集中して魔法を撃っていく!
もうやだっ、倒しても倒しても次々来て切りがない!
誰か助けて~!!
ーーその時。
心の声が聞こえたわけじゃないだろうけど、タイミングよく助っ人が現れた!
狼人族の青年だ。
「大丈夫か!? 加勢する!」
身長ほどもある大剣を持って、群れの中に飛び込んできた!
勢いに任せて振り下ろし、薙ぎ払い、ひとなぎごとにまとめて5体ぐらい吹っ飛ばし、次々と刈り倒していく!
なんだこのヒーローみたいな登場の仕方、かっこ良すぎるだろ!
あまりの勢いに、それまで様子見をしていたゴブリンたちは我先にと散り散りに森の中へと逃げていった。
それでもまだ向かって来るやつはいるんたなこれが!
もうっ、しつこいっ!
暴れまわってくれてる狼人族さんに魔法で援護射撃をしつつ、『索敵』で残数を確認していく。
が、縦横無尽に暴れて瞬く間に殲滅してしまった!
この人スッゴク強い! カッコいい!!
「あんたエルフか。いや大変だったな。怪我はないか?」
そうでした。先ほどの戦闘で、フードなんかもうすっかり取れちゃってましたよ。でもバレた相手が狼人族さんなのでまあいいとする。
「ええ、大丈夫です。もうダメかもと思いましたが……助けていただいてありがとうございました」
「いやちょうど行く道筋だったから間に合ってよかったよ。これからあっちの村に知り合いを訪ねて行く途中だったんだ」
それってさっきまでいた村の事?
「もしかして狼人族の冒険者さんがいる……」
「知ってんのか?」
あの時見た獣人さんのことだろうか、ジーンさんが村専属の冒険者だと言ってた人。
「先程立ち寄ったばかりですが、出張所で聞いたんです」
「ああ、ジーンさんからか。そうだよそいつに会いに行く途中でな。それよりこれどうする? 山分けでいいか」
二人とも周囲を警戒しつつも、魔石を取る手を止めずに話していたが、彼はこちらに有利すぎるそんな提案をしてきてくれた。いい人。
「いやいやそれは悪いです。危ないところを助けて頂いた上に、ほとんど貴方に倒してもらったのに」
「でもあんたも魔法で援護してくれただろ。あれ助かったよ。それに俺が加勢する前、あんた一人で倒してたのも随分あるだろ? だからあんたにも権利が……って名前がないと呼びにくいな、俺は狼人族のラグナードだ。あんたは?」
この人名前も格好いいんだ。このあとに私のベタな偽名、名乗るの恥ずかしいんですけど。
「エルフのローザです」
「ローザさんか。ともかくローザさんにも権利があるから魔石を集めて早くここを離れよう。さっきの奴ら戻ってこないとも限らない。そういえば村から来る時、ここ以外で魔物に遭遇したか?」
「呼び捨てでいいです。一度もなかったですけどラグナードさんは?」
「分かった。俺も呼び捨てでいいし敬語もいらない。そうだな、俺も町からここまではなにも遭遇しなかった。元々ここらは伐採が追い付いてない場所で、たまに街道まで魔物が出ることもあるんだよ。今回はローザがいたから楽に倒せたけどな」
「私もちょうどよくラグナードが通りかかってくれなかったら危なかった。ありがとう」
「いいってことさ。冒険者同士、助け合わないとな」
それから魔石を均等割りし、その後、死骸を一か所に集めた。ラグナードが土魔法で掘ってくれた穴に奴らを捨ててから焼却し、手早く後始末を終える。
二人でするとあっという間だった。
「じゃあ俺は予定通り村に行くよ。こっから町までだと森もどんどん拓けていくし、あれだけ魔法が使えるなら一人でも大丈夫だと思うぞ。ボトルゴードの町を拠点にするなら会うこともあるだろ。またな」
「うん、色々ありがと。またね」
お互い進む方向が逆なので、あっさりとここで別れた。
なんか私、今日はこの世界の人達に助けられてばかりだ。
欲しい情報をこうやって教えてくれるのって、とっても助かる。本当ありがたいよね。
町まであと半分ちょっと、気をつけていこう。
いつもお読みいただきありがとうございます。




