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第13話 初めての村



 ◇ ◇ ◇




 到着四日目の早朝。


 朝食を食べた後、集落より大分離れた森の中の樹の上からじっと様子を伺う。



 ――普通の農村っぽい?


 さっき朝日が登ったばかりだけどもう農作業なのかな、外に出てる人たちがいる。農家の朝が早いのはどこの世界でも同じだね。


 まだ詳細は分からないけど、とりあえずは廃墟じゃなくてよかった。


 人族、だけかな?


 しばらくこっそりと様子を伺っていると、一人だけど獣人族っぽい人が出てくるのが見えた! こことは反対側の森に向かって歩いていくみたい。


 見た感じ、他に別の種族……同族であるエルフとかも、いないような? ちょっと本物のエルフの人を生で見てみたかったかな。




 もう間違いない。ここは人族の村で決まりだね。それに、こんな小さな集落に二種族が暮らしているなら危険度も低いかも。行っても大丈夫そうじゃない?


 今からだとちょっと時間的に早過ぎるから、一度森の中で換金用の魔物でも討伐してから向かうことにしようかな。


 さっきから『索敵』に何体か引っかかってきてるんだよね。危険度低そうなのが。




 樹から降り、森の中から街道に向かって、その何かがいるほうへ進んで行くと……。


 ――早速みつけた。ホーンラビットだ。


 ほんとよく遭遇するよね君。やっぱり春と秋に何故か増えるという謎の時期的なものが関係してるの? 魔物にも好きな季節とかあるんだろうか?


 この魔物もまた、遠くから見るぶんにはすっごく可愛いらしい見た目をしている。


 でも戦闘中、牙を剥き出してデビルモードになるのはポイズンラットと一緒。黙ってれば本当、ペットにしたいくらい可愛いのに。


 いやまあこの落差のおかげで害獣退治してる気分になれて悪罪感なく倒せてるんですけどね。可愛いままだったら魔物とはいえさすがにちょっと、倒すのに戸惑ってたかも。



 体長は普通のウサギより少し大きめかな。体全体が短くやわらかい金茶色の毛でおおわれている。


 真っ黒で大きな目も、真ん丸な尻尾も愛らしいけど、何と言ってもこの額部分から生えている黄金色の一角。これぞ異世界って感じでファンタジーしてていいよね!


 毛皮の触りごこちも最高で、まるでビロードのようにすごく気持ちいいの! ついつい自作したラビット袋をナデナデしてしまうくらい。



 これは高く売れるんじゃないかなと思ってるので、今回は傷跡を少しでも小さく出来そうな水魔法で倒してみることにした。


 今使える水魔法は、レベル1の『水弾』『水矢』。一撃で仕留めたいから、威力の強い『水矢』を使う。


 命中しないと血が飛び散ってグロいことになるけれど、一撃で仕留めれば、スプラッタを見なくていいし、きれいな状態の毛皮が捕れるから頑張らないとね。


 つまり私の苦手なコントロールがとっても重要になってくるんだけど、そこはここんとこ食べまくってる青の水玉茸(マジックキノコ)の効果に期待しちゃいたい。頼んだよキノコ!


 でもそれだけだと失敗するかもしれないから、ちょっとした作戦を立ててみた。単純に、聖魔法の『聖火』で目くらましをして、動きを一瞬封じてから『水矢』を撃つってだけなんだけどさ。いけると思うっ。




 不意打ちは基本。気づかれてない内にやっちゃおう。


 では行くよ、まずは目潰し!



聖火ホーリーヒート』!!



 ピカっとまばゆい光がホーンラビットの目の前で弾けた。思った以上に大きな光の球が出せたんだけど! この技、保存食作りで鍛えられたから随分上手くなってる!


 足元が一瞬ふらつき、突進して来ようとした姿勢のまま、その場で止まってしまってる。


 よしっ効いてる! これで狙いを付けやすくなった。今のうちに続けて……。



水矢ウォーターアロー』!!



 バッチリ当たった!


 いや何だか手慣れてきたね私も。この方法だと命中するから一撃で倒せて血もほとんど飛び散らず、グロいことにならないし精神的にも楽。

 魔法スキルを取っててよかったよ。接近戦だったらこんなに早く、魔物狩りに慣れなかったかも知れない。


 ホーンラビットはゴブリン一体と同程度の弱い魔物だけど、ポイズンラットやゴブリンのように群れないから危険度は下がる。

 一体ずつ遠距離から魔法で狙い打ち出来るところが初心者向けでいいんだよね、焦らず集中していけるから。


 この調子で次も行こう。


 またすぐ同じ反応が『索敵』に引っかかったので、さっきと同じ手順で同じように狩りをして、ホーンラビットをもう一体倒した。


 これで二体、もういいかな? けっこう嵩張るし。


 今回は肉も含め、丸ごと全部位を納品するから腐りにくくするために魔石は体内から取り出さない。

 血抜きも必要ないから、持ち運びしやすいようにそこら辺の蔓で縛っていくだけでいい。後始末が楽チンです。




 でも何回見ても不思議。この魔物の生命が消えていく瞬間っていうのは。

 魔物が死んだかどうかは鑑定するまでもなく、すっと血の気が引いたようになって、体が一回り縮むから見ただけでもう、分かるんだよね。初心者の私でも簡単に判断出来る状態になるので助かっている。


 それに何故か、体積も減って軽くなるから、死んだ瞬間に、魔石に魔力や体液が吸い込まれてるんじゃないかって言う仮説が立てられてる事になるみたいだけどね。



 思ったより近くにたくさん魔物がいたから、予定より全然時間が掛からず終わった。

 念のためフードを被って尖った耳を隠してから、思いきって森を出る。



 普通に街道を歩き二十分ぐらい、ようやく人里に着いた。


 ついに、この世界に来て初めて、現地の人と会話する日が来ました!


 緊張するよ~!!






いつもお読みいただきありがとうございます。

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