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レスト村

小屋の近くに川があったので、女性達を千鶴さんに任せて身なりを整えて貰った。衣服は俺の予備のため、かなりサイズが大きいがジョーンズさんの積荷に衣類もある筈なので、それまで我慢して貰うことにした。

やはり男に対してトラウマが出来ているのか、俺や小次郎さんから微妙に距離をとっているが、それでも小屋にいたときより表情はだいぶマシになっているようだ。


馬車まで戻ると、埋めている盗賊3人に気がついたのか悲鳴が出掛かったが、肩まで地面に埋められた姿に気づいて気丈にも悲鳴を呑みこんだ様だ。

ジョーンズさんに頼み込み、彼女たちの着替えを提供して貰い、馬車内で着替えをして貰っている間に、賞金や財貨の分配の話し合いを行った。それについては結構簡単に決まったが……


「という訳で、あいつ等は犯罪奴隷としてグラリアに引き渡す積もりなんだが……勿論、貴女たちが復讐したいと言うなら止めはしない……」


彼女たちは、全員がファーウッドの出身らしい。先に捕まっていた女性たちは、豊穣祭を見物するために家族で移動していたところを、騎士団の監視を逃れたあいつ等に襲われたらしい。その際、彼女らの夫や兄弟は殺されてしまったそうだ。

そして、後から捕まった女性たちは、先に捕まった女性の親類らしく、帰ってこない義姉を心配して村の若いのを護衛にグラリアまで行くところを襲われたそうだ……


つまり、彼女らにはこいつ等を殺すに足る動機がある。それはお金では賄う事が出来ない部分だ……一応、彼女らに犯罪奴隷のうち戦奴と成った者たちの生存率は教えておいたが………ちなみに生きたまま刑期を終えた者は、ここ20年で0だったりする。


一時間ほど、女性たちで相談をしていたが、結論が出たようだ。


「すみません、この人たちをグラリアへお願いします」


盗賊たちを見る憎しみを込めた瞳、だが自らの手で復讐する事を放棄してまで、お金が必要な理由か……

女性の一人がポツリとつぶやく


「確かに、今すぐにでも夫と同じ目に合わせてやりたいです……ですが、ファーウッドに息子が居るんです。あの子を育てるためにもお金が必要ですから……」


だろうなぁ、働き手を失った女性とその子供が生きて行くためには、誰かと再婚するか……こいつ等を売った金を手にするかだろう……ファーウッドは小さな村だと聞いてるし、そうそう再婚できるとは限らんだろう。



とりあえず、盗賊どもはこのまま埋めておいて、戻ってきたら回収する事にした。あいつ等を連れて行くのは彼女らの負担になるだろうし、往復する間なら飲まず食わずでも死にはしないだろう……個人的には死んでも構わんが、売却金をもらうためにも、その辺の魔獣に齧らせて死なせる訳にもいかないので、周辺の地面を固めた後、空気穴を開けたドーム状の岩盤で頭を包んで放置することにした。



女性たちを馬車に乗せ、移動を再開した。と言っても日暮れまでそれほど時間も残っていなかったので、野営に適した場所まで移動する程度だったんだけどな。


そして、ここで問題が発生した。


「なぁプミィさん……スープってどうやって作るんだ?」


プミィさんは腕を組み真顔で答える


「分からん!!わしは食う専門や!」


がくりと項垂れ、頭を抱える

「ああ、俺もだ……」


どうやらお互いに料理が出来ると思い込んでいたらしい……迷わず調理器具や材料を選んでいた俺を見て料理が出来ると思ったプミィさん、隊商を率いていたと言っていたプミィさんをジョッシュさんと同様だと思い込んだ俺、確認って大事だなぁ。そのまま食えそうなのはパンと一部の果物類くらいか……

ドルフさんもどうやら同じらしく、そのまま食える物を詰め込んで来たらしい。通りで袋が膨らんでるはずだよ……

小次郎さんと千鶴さんは結構手馴れているようで、テキパキと準備を進めているようだ……悩んでても仕方ないし、やり方を教わるのが手っ取り早そうだな。


「小次郎さん、千鶴さんちょっといいですか?」


竃で火を熾していた小次郎さんがこちらに振り返る。


「ん?如何したでござるか?」


「それが俺たちどっちも料理したことが無くてですね。材料は有るので、作り方を教えて貰えませんか?」


小次郎さんは、顎に手を当て


「ならば、皆の分を作るのが良いでござろう。料理というのは少量を作るより、大量に作るほうが美味くなる物もござるからな」


小次郎さんの指示の元、竃を大人数用に作り直し、薪を拾い集める男衆と千鶴さんと女性陣の料理班に分かれることになった。ちなみにプミィさんはサイズの関係で料理班で雑用兼手順のメモ係になっている。


さすがに主婦の皆さんは手際が違うなぁと思いつつも、地魔法を使って簡易的なテーブルと椅子を生成する。地面に直接座るよりは幾分かマシだろう。


「ロック殿の魔法は便利でござるなぁ。拙者かような使い方をする魔法使いを初めて見申した」


ドルフさんやジョーンズさんも頷いている。まぁ魔法なんて戦闘用って認識だからなぁ。こういった使い方を研究する奴もいないらしいし……


「そうですねぇ。昼間の盗賊との戦いでも、落とし穴を作っていましたが、相手の邪魔を目的とした魔法の使い方もあるんですねぇ」


ドルフさんも以前あった事のある魔法使いを思い出したのか


「だなぁ、昔見た地魔法の使い手は、魔力が切れるまで『ストーンバレット』撃ってるだけだったしな……工夫は大事ってことだな!」


そんな話をしていると、どうやら料理が出来たらしい。野営とは思えない料理に慣れているはずのジョーンズさんや小次郎さんも驚いているようだ。

皆で料理を食べつつ、雑談に興じているが、俺は『アースソナー』を、小次郎さんも周囲に意識を飛ばしているので、不意打ちをされることは無い。


「そういえば、小次郎さんと千鶴さんって結構不思議な響きの名前ですよね?」


小次郎さんは苦笑しつつ


「拙者たちの出身である水狼族は、この大陸の東の果てに有るでござる。少々特殊な文化を形成してござってな、名前もその一部でござるよ」


東方といえば、日本風文化……有る意味お約束だが……実際に共通語で書けば「コジロー」「チヅル」となるのだろう。俺の脳内では勝手に漢字に変換されているが……


食事と片付けも終わり、見張りを残して他は寝ることになった。まぁ夜更かししても意味がないというか、寝れる時に寝るのは冒険者や旅をする者の必須技能だ。



■□■□■□■□■□■□■□



翌日の移動は概ね順調だった。散発的にゴブリンが2,3匹向かって来ることもあったが、あの程度の数ではこちらに被害が出るようなことは無かった。

ただ……ほとんどのゴブリンの肉体に、戦う前から欠損があったり、大小の怪我を負っていたのが気になったが……


太陽が中天に差し掛かる頃、レスト村が見えてきた。大抵の村では周囲を柵で囲い、門に見張りをつけるのだが……なぜか、レスト村には居なかった。


ここに来る頻度が最も多いジョーンズさんも普段と異なる様子に首を傾げていたが、その理由は村の広場に行くことで判明した。この規模の村なら、ほぼ全ての村民が集まっているのだろうと思われるほど、広場は人で溢れ返っていた。

どうやら村人全てを集めて、話し合いをしているらしいが、ここからでは話の内容が聞こえない。表情からはかなり切羽詰っている様子で、村長や若衆が言い争いに近い雰囲気になりつつある。


とりあえず、ジョーンズさんが近くにいた村人に話を聞いてみることにしたんだが


「すみませんダリア夫人、何があったのですか?」


話しかけられた40歳くらいの女性はジョーンズさんを見ると、喜びを顔に浮かべるが……すぐに沈み込んだ表情になってしまった。


「あら!ジョーンズさん。………貴方も大変な時に来てしまったねぇ。悪いことは言わないから、すぐに村を出たほうがいいよ」


要領を得ない言葉に、ますます困惑を深めるジョーンズさん、だが商売に来た商人にすぐに出て行けとは……このままここに居ると、命か財産のどちらかが危機に陥るということだろうか?


「申し訳ありません。もう少し詳しく教えて頂けませんか?」


一つため息を吐いたダリア夫人が教えてくれた内容は衝撃的だった。


今朝、猟師のバーンズが森に入ると、妙に獲物が少なかった。普段であれば浅い部分で十分に獲物が取れるというのに、今日に限っては普段の半分以下という有様だった。やむなく普段よりも深い部分まで入り込むと、森の気配がおかしい事に気がついたそうだ。

虫の声が無く、木々のざわめきだけが耳につく、そんな様子に違和感を覚えていると、更に森の奥から金属音が聞こえてきたそうだ。


気配を殺し、音のした方へと近づくと其処には信じがたい光景が広がっていた。少し開けた場所でオーク達が出発の準備をしていたのだ、しかも襤褸切れ程度しか纏わない普通のオークと異なり、全員が揃いの皮鎧と肉厚の斧を装備してたのだという。そして他のオークより一回り大きく、立派な飾りのついた兜を被ったオークが村の方向を指差し、雄叫びを上げたそうだ。

その声を聞き、村へと急ぎ戻ってきたのが先ほど、位置関係からしてこの村を目指しているなら、あと2時間ほどで到着するだろう現状で、どうするか話し合いをしてるそうだが………割と詰んでる気がするんだが


村を捨てて逃げる派と村を守る派とで別れ、ほぼ平行線の状態らしいが、どちらにしても今からではグラリアに着く前に追いつかれるだろう……オークは単体ではD-の妖魔だが、こいつ等の特徴は、オーガほどではないが強力な腕力と、無尽蔵ともいえる体力だ。子供や老人では逃げ切れるとは思えない……

ジョーンズさんにしても荷物を全て捨て、馬だけで逃げれば何とかなるか……というところだろう。


どうやら村長が幌馬車に気がついたようだ、罵り合いに近くなりつつある両派を押さえ、しばらく落ち着くように言い含めると、こちらに歩み寄ってきた。


「おお、ジョーンズ殿久しぶりですなぁ。だが少々間が悪かったようです」


「その様ですね。先ほどダリア夫人からお聞きしましたが、今からでは私たちも逃げることは難しそうですね」


周囲の村人も同様の意見なのか、暗い雰囲気が漂う。そんな中、村長がポツリとつぶやく。


「やはり、妻や子供たちだけでも逃がすしかないのかのぅ」


つまり、村の男たちで決死隊を作り、時間を稼ぐ。その間にグラリアへ女性や子供を逃がすといった所か……だがその場合、この村は滅ぶだろうな。男手を失った村が再建を図るのは無理がある。おそらく縁戚を頼ってそれぞれ散っていくことになるだろうなぁ。


村長のとなりに立つ中年の男性も深くうなずき


「ですな、せめて妻や子供だけでも助かれば……」


その表情が既に死を覚悟したものであると分かってしまう。俺がまだ俺として目覚める前……村に冬眠に失敗した熊が入り込んだことがある。その熊を退治するため、粗末な槍を手に家を出て行く父の顔にそっくりだったのだ。そして何より驚いたのは、泣いた姿を見たことが無かった母の泣き顔だ……その時、父は死ぬことは無かったが、左手に数週間の怪我を負い、他に数名の犠牲者が出たと覚えている。


「プミィさん……ちょっといいか?」


「ロックはん、どないしたん?」


俺の声に肩へと乗り聞き返すプミィさん


「前にさぁ、俺のステータスを見せたとき、トラブルの元だから全力を出さないって言ったじゃないか?」


プミィさんはきょとんとした顔をしたが、その後に続く俺の言葉を察したらしく、にこやかに笑うと


「わしとロックはんはチームや。ロックはんが決めたんなら、わしはわしに出来ることで手伝うだけやで」


「プミィさん、ありがとな。ならこの村を守るのに力を貸してくれ!」


プミィさんと拳をあわせ、村を守るために村長へと歩みを始める。



盗賊を包んだ岩盤ドームは、朝露を口元に運ぶ溝があります(運がよければ水なしは避けれるかも?)

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― 新着の感想 ―
[一言] 女子供は地下に地下室作ってオークが引き上げるまで 籠城するしか無いか?
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