お外で遊ぼう
目覚めると、部屋の鎧戸を開け外を眺める。…うむ、いい天気だ。
昨日の内に、井戸の場所は訊いておいたので、タオルと洗面具を持って向かう。井戸水をくみ上げまずは顔を洗うと、冷たい地下水が眠気の残滓を取り払ってくれる。
歯ブラシ代わりの木の枝と塩で歯を磨くと部屋に戻り、昨日買った服に着替え、ブーツを履く。
うん、見た目だけは冒険者ぽくなったな。
食堂に下りると、女将さんが給仕をしていたので、朝食を頼む。出てきたのはパンとサラダ、それからベーコンと豆のスープだった。サラダは宿オリジナルのドレッシングらしく、オリーブオイルベースの風味がサラダにマッチしていた。
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ギルドに到着すると、3つ鐘がなったばかりだというのに、既に冒険者たちがクエストボードの前に集まっていた。
俺も、今日は薬草の採取の依頼でもやってみようと思い、クエストボードに向かう。ボードに張ってある『五葉草』の採取依頼を見つけたので、持って行こうとメモをつかむと、後ろから声が聞こえた。
「ちょっと!そこ通して頂戴」
何事かと振り向くと、赤毛の気の強そうな少女と、翡翠を思わせる髪色のおとなしそうな少女
がこちらに向かって来た。
「あった!それ私たちがやるんだから渡しなさいよ!」
そう言うと、俺の手から当然の様にメモを奪い取ると、カウンターへと歩いていった……って俺の依頼取られた……
奪い返すのも面倒だし、こちらを伺っていた職員に手で問題ないと合図すると、他のFランクの薬草採取も確認しておく。
しばらくすると、職員が先ほどのメモを持ってクエストボードへと張りなおしに来た。この手の採取依頼は、需要がなくなる類のものではない為、常に受付していると聞いていたので改めてメモを持ってカウンターで処理をしてもらう。
「それにしても、あんなことして良いんですか?」
先ほどのやり取りは、カウンター側でも見えていたので一応聞いてみるか。
「本来は、受け付けないのですが薬草採取の依頼は常時ありますし、先ほどは貴方からの了解もいただけましたので、手続きを行いました。ですが、彼女は既に何度か他の冒険者の方と揉めておりまして、今度何かあれば厳重注意を行うことになると思います」
ふむ、たしかそれでも改善しないと資格停止になって、最後は取り消しだっけ?
「それならいいです。それと依頼は一度に一つまでだそうですが、たとえば依頼達成可能な量の薬草や討伐部位を持ってきた場合、後から達成扱いになりますか?」
「そうですね、採取依頼であれば達成とみなされます。討伐については場所指定の依頼が大半で、その場所の目標を討伐することに意味があるため達成扱いになることはほとんどありませんね」
まぁ、討伐については当然か、たとえば村でゴブリンが出たときに、他所のゴブリン退治されても意味無いもんな。
「例外的には、常時依頼として掲示されている、数減らしのための依頼や食料目的の依頼の場合は、後からでも可能となりますよ」
確かホーンラビットの常時依頼があったから、それも狙っとくかねぇ。足りなかったら宿に持って帰って料理してもらおう。
「じゃあ俺も採取に行ってきますよ。確か南の草原に群生地があるんでしたっけ?」
「ええ、早い者勝ちではありますが、まずはそこに行くことをおすすめします」
場所を確認した後、俺も採取のためにギルドを後にした。
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南の城門を出て、徒歩で30分ほど歩くと、そろそろ群生地が見えてくるはずなんだが………
「………やく、しなさ………」
「でも、………づつって………」
なんか聞こえてきたんだが、どうやら先客が居るようだな。
群生地にはさっきの少女二人組みがしゃがみ込んでいて、『五葉草』を採取していた。『五葉草』はその名の通り、5枚の葉をつける薬草で、依頼の内容も『5枚の葉を取ってくること』のため、一株分採取できれば依頼が達成できるんだが……
20株以上あるそのすべてが、葉を取られた状態で揺れていた。誰もが知っているこの群生地では、暗黙の了解として一人一株まで採取するようになっているんだが、この時間帯で既に全部なくなってるとは………
「な、なによ!私たちが全部とったとでも言うつもりなの!?あなたが遅いのがいけないんじゃない!」
赤毛の少女が叫ぶ
俺まだ何も言ってねぇよ…と、突っ込みたいところだが、こんだけ慌てていると何かそれが正解ぽいよなぁ。
ちなみに、翡翠色の少女のほうは、俯いてプルプル震えているんだけど、状況証拠は十分じゃね?
「いや……んなこと言ってねえけどよ。ここは街の人たちも来る所だから、本当なら止めといたほうがいいと思うぞ?」
素直な感想をつぶやくと、翡翠色の方がびくりと揺れる。赤毛は黙り込むと、翡翠色の手を掴んで去っていった。
「何なんだ?ありゃ……ともあれ、ここにはもう生えてねぇし。他を探さねぇとな」
村に居た頃も、ばっちゃの頼みで薬草を取ってくることはしばしばあったので、探し方はわかっている。
薬草ってのは、採取しても一晩立つと元に戻るんだが、これは地中の魔力を吸い上げて成長力に変えてるからなんだ、だから魔力の多い場所を探せば見つかりやすいってわけだ。
地形探知魔法『グラウンドサーチャー』を使って、地表近くの魔力密度が高い場所を探していく。この魔法は『アースソナー』と対をなす目的の為に作成した魔法だ。非生物の魔力や地形を三次元的に解析して、周辺の地形や魔力の流れ、魔石・魔鉱を探知することが出来る。
更に、『インセンスドスメル』を併用し、薬草の匂いを探していく。『五葉草』はわずかだがハッカに似た匂いがするため、それを目印に探す。程なく、別の群生地が見つかったので、他の人のことも考えて3株ほど採取していく。先ほどの群生地以外は別に独り占めしても構わないが、欲張ってもいいことねぇしな。
その後、1時間ほどかけて5種類の薬草の群生地を発見し、それぞれ依頼2回分ほど採取しておいた。そろそろ日も高くなってきたので帰ろうかと思い、南門へ向かって歩いていると俺の鼻に獣臭が引っかかった。
3羽のホーンラビットはこちらに気づくと、額の角を立てこちらへ向かって突撃してきた。
ホーンラビットは名前そのままに30センチほどの角が生えた、体長60センチほどの兎だ。ちなみに雑食で人間を襲うこともある(普段1羽のときは逃げるらしいが、今回は3羽の為、気が大きくなったのかもしれんな)
攻撃方法は非常に単純で、『額の角で相手を刺し殺す』ただそれだけだが、脚力が強いので、油断すると初心者はあっさり死んだりもするらしい。
まっすぐに突っ込んでくる先頭の1羽を、左足を踏み込み半身になることでかわすと、そのままわき腹を蹴り上げる。
「ギュイ!」
蹴り上げたホーンラビットが宙に浮いている間に、2羽目の首めがけて蹴り上げた右足を振り下ろす。足に首の骨が砕ける感触が伝わるが、無視して落ちてくるホーンラビットの首を片手で掴む。残った3羽目を見ると無理やり軌道を修正し、あさっての方向へ駆け出していた。
俺は、逃げるホーンラビットへ空いているほうの手をむけ魔法を放つ
「逃さんよ…『ピット』」
突如ホーンラビットの足元に穴が開き、ホーンラビットは空中で足をかくがそのまま穴の底へと落ちていった。
捕らえたホーンラビットと、掴んでいたホーンラビットにダガーで止めを刺すと、首と足首に切れ目を入れて血抜きを行う。ロープで縛って袋に入れると、俺はギルドに戻ることにした。
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ん?なんか騒がしいな?なんかあったのか?
カウンターの前に人だかりが出来ているようで、どうも誰かがカウンターでごねているらしい。さっさと依頼を終わらせたいため、人ごみを掻き分けカウンターへ近づくと、そこに居たのはさっきの赤毛だった。
いや……何でまだ居るんだよ。だいぶ前に帰ったじゃねぇか。なんか職員といい争いしてるし……
「だから、どこだっていいじゃない!取ってくればなんだって一緒でしょ!」
「いえ、ですから新しい群生地が発見された場合、こちらも一応把握しておく必要がありますから、報告をしてくださいとお願いしているのです」
ん?あいつは最初の群生地から帰ったんじゃないのか?どっか別の群生地を知ってたのかねぇ?とりあえず騒ぎは無視して隣の窓口に行くとするか。
「依頼の『五葉草』を取ってきたから確認してくれるかい?」
記憶の通りの物だし、念の為鑑定もしたから心配ねぇとは思うがな。
「はい、お預かりしますね。3株分ですか、失礼ですが採取した群生地を教えていただけますか?」
この周辺だとちょうどいい目印に砦があるから、親子砦の見える角度と周辺の地形を教えれば、大体迷うことなくいけると思う。
大体の場所を教えると、金髪をポニーテールにした美人(胸がざn 殺気!?)は、棚に置いてある資料と見比べ書き込んでいく。
「新しい群生地のようですので、後ほど確認させていただきますね。位置も近いですし、もし宜しければ公開させていただけないでしょうか?その場合、わずかですがお礼もさせて頂きます」
確かに今の場所だけだと、数が少ないしなぁ。俺はまた別のところを探せるし教えても問題は無いだろう。
「ええいいですよ。見えにくい位置とはいえ、いつかは見つかるでしょうし、問題ないです」
「ご協力ありがとうございます。では3回分の手続きを致しますね」
おっと、忘れるとこだった。他の薬草とホーンラビットもわたさねぇとな
「すみません、あとこれも見つけたんで一緒にお願いします」
金髪ポニテさんは量にちょっと驚いていたが、同じように位置の確認をして受け付けてくれた。ちなみに次回からは別の群生地を探すだけの能力があると認められる為、場所の聞き取りはなくなるらしい。
もっとも、新しい群生地を見つけたら教えてくれるとありがたいとは言っていたがね。
『五葉草』3回分と他の薬草各2回分、それからホーンラビット1回分の計14ポイントを獲得し、報酬は合計で銀貨8枚と銅貨80枚になった。それとホーンラビットの毛皮が、一枚あたり銅貨20枚で買い取ってもらえたので、全部で銀貨9枚と銅貨40枚になった。
昨日使った分が、元に戻ったんですけど……冒険者って儲かるのなぁ。とか考えていたら普通Fランクでそんなに稼げる人は居ないし、かかった時間も短すぎるって呆れられたよ……
何にせよ、これで昨日あきらめたマントが買えると思い、上機嫌でギルドを後にしようとすると、何故か赤毛に因縁をつけられた……
赤毛は俺をにらみながら
「ちょっと!なんでこいつはよくて私はだめなのよ!不公平じゃない!」
……なにを言ってるんだこいつは?
カウンターの上には、『五葉草』が21束置いてあり、記憶にある群生地の茎の数は21個……これで刈りつくしたと疑うなというほうがおかしいんだが……
ついでに俺に食って掛かるのって、結構自殺行為じゃね?だってさっきあったことを喋られると、余計に容疑が深まるだけだと思うんだが。いくら明文化していないルールとは言えど、今までの先人たちが揉め事を起こさない為に、自然と出来たものなんだから、破れば印象悪くなって当然だと思うんだがなぁ。
居ないと思っていた翡翠髪の方は、すでに諦めた顔で椅子に座りこちらを見ている……どうもあっちは状況がわかっているようだが、赤毛のせいで口出しできないようだな。
「なぁ、赤毛の姉ちゃん……俺は自分で見つけた群生地から採取してきたし、その場所も教えてある。これのどこに問題があるって言うんだ?」
「だ、だって私たちも群生地を見つけたって言ってるのに、認めないって言うんだもん!」
俺は眉をしかめると
「だから、その場所を言えばいいだろうが。別にギルドに伝えても他のやつらに公開するわけじゃないんだからよ」
「そ、そんなのわから「あの! ごめんなさい!!」 レイン?」
声のしたほうを向くと、翡翠髪――レインというらしい、が頭を下げている。
「わ、私たち、おっしゃるとおり共有群生地の薬草を全部取ってしまったんです!」
赤毛が目を見開き、慌てたようにレインの口を塞ごうとする。
「ちょっとレインなにを言うのよ!」
「でもエイナ!もう言い逃れできないよ!今逃げれても後でわかっちゃうんだから…」
なんかわからないけど……自供したってことでいいのか?
まぁ何か事情があるのかも知れねぇけど、今回なら警告で済むはずだし、俺は帰ってもいいよね?
そっと、職員の方に目を向けると、頷いてくれたので、そっとギルドを後にした。
後でエマさんが教えてくれたが、赤毛――エイナは厳重注意と依頼未達成の罰金、レインはエイナと同チームのため罰金の半分を受け持つことになったらしい。
仕事が忙しくなったので、しばらく更新が不定期になりそうです。




