ドレス!……マグノリア視点
私はマグノリア。ペイシェンス様にお仕えするドレスメーカーです。
前は、マダム・トレメインにお仕えしていましたが、年配向けの貴婦人のドレスが多く、高級な生地の取り扱いとかは勉強になりました。
でも、心の中で、もっと若々しいドレスを作りたい! との欲求を持っていました。
そんな時、ペイシェンス様が屋敷でドレスを作らないかとの申し出があったのです。
安定している職を離れるのに、少しだけ躊躇しましたが、ペイシェンス様が着られていた赤地に黒の格子模様のドレスを見て、惚れてしまいました。
「私達の年頃の令嬢のドレスがないのです。お子様向きから、いきなり貴婦人のドレスになるのですもの。若々しいドレスが必要なのです」
それは、私が常日頃から感じていたけど、勇気を持てなかった分野です。
お世話になっているマダム・トレメインから離れて、グレンジャー子爵の屋敷へ。
これまでは、マダム・トレメインのアトリエはアップサイドにありましたが、私達はアップサイドの部屋の家賃など払えないので、ミドルタウンか、ダウンタウンから通っていました。
グレンジャー子爵の屋敷には家政婦のミッチャム夫人がおられ、その方の指示に従います。
でも、ミッチャム夫人よりお嬢様の侍女のメアリーさんの方が、お裁縫組のメイド達を指導している感じでした。
それと、驚いた事に、グレンジャー家には、あらゆる布が綺麗に展示されているのです。
それは、お嬢様のドレスだけではなく、お友達の伯爵令嬢や他の身分の高い方も、ドレスを作られるからです。
お針子組の中で、マリーとモリーが一番腕が良いですが、まだまだモリーは貴族のお嬢様の前に出すのは不安です。
言葉遣いが……下町の暮らしが長かったのか、乱暴なのです。
それは、ミッチャム夫人が厳しく指導しているので、いずれは改善すると思います。
それと、グレンジャー子爵家の食事! 本当に美味しいのです! 勿論、家族の方やお客様と同じ料理ではありませんが、使用人の料理も美味しい!
そして、たまに残されたケーキは、激しい争奪戦になります。
普通のお屋敷では、次の日に食べるのですが、グレンジャー子爵家では、昼と夜に出したら、使用人に下されるのです。
料理人のエバさん、凄腕です! そして、料理助手のミミさん。このお屋敷には、他の貴族の屋敷から調理人が料理を学びに来ているのです。
「このチョコレートケーキ、ほっぺたが落ちそうだわ」
運良く手に入れたモリー! 皆に睨まれていますが負けません。
それに、次の機会にケーキが食べられるかもしれないので、皆騒がないのです。
一度、ケーキの分配で揉めた時、ミッチャム夫人の雷が落ちたので、二度としないと誓ったのです。
「ゲイツ様が来られると、ケーキの残りが少ないわ」
今回はケーキに当たらなかったミミが苦情を言いかけて、エバさんに睨まれて口を閉じました。
スイーツだけでなく、料理もとても美味しいので、文句を言ったら罰が当たります。
私は、お嬢様が王立学園で縫われたドレスをメアリーさんに見せて貰い、衝撃を受けました。
緑の生地は、王立学園の裁縫の授業の教材ですので、最高級の絹とは言えない品ですが、そこに施された銀ビーズの刺繍!
「これをお嬢様が?」
驚く私にメアリーさんは、自慢げに頷きます。
「お嬢様は、学業も刺繍の腕も素晴らしいのです!」
普通の侍女がそんな事を言ったら、身贔屓が激しいと思われますが、ペイシェンス様は事実です。
いや、事実以上でしょう! 冬の魔物討伐で、多くの魔物を討伐して、子爵に叙されたのですから。
あの華奢なお嬢様が、魔物を討伐されるだなんて! 信じられません。
それより、私が衝撃を受けたのは、お嬢様のデザインセンスです。
「ああ、これはラフォーレ公爵家の舞踏会の出し物の為のドレスですわ」
何枚か、捨ててあった服のデザイン! とても衝撃を受けました。
「あのう、このドレスに変えても良いでしょうか?」
裾はストンと落ちているけど、長い裾に輪っかを付けて、それを指に掛けるドレスです。
「足が見えないようにしなくてはいけませんよ! もし、お嬢様が気に入らなかった場合のドレスも用意しておきなさい」
グレンジャー子爵家には、お針子が多いし、直線縫いはミシンがあります。
ラフォーレ公爵家の舞踏会に着て行く予定のドレスを、リフォームします。
マリーとモリーに手伝って貰って! そして、お嬢様に試着して貰うと、とても素敵なドレスになりました。
「踊って、足が見えないかチェックしなくては」
弟君と踊られるお嬢様! 裾が翻りますが、中のペティコートで足は見えません。
「中のペティコート、他の色にしても面白いかもね!」
新しい提案に、私は「そうですわ!」と手を打ちました。
それからは、マーガレット王女のソニア王国行きに同行されるお嬢様のドレスを縫う日々でした。
「新しいドレスが必要ですわ! それも特別なドレスが!」
メアリーさんが興奮して裁縫部屋に入ってきました。
「どうなさったのですか?」
新作のドレスは何枚も縫っています。
「お嬢様とパーシバル様の婚約パーティを開かれるのよ」
蜂の巣を突いたような騒ぎになりました。
お嬢様の婚約者のパーシバル様は、滅多にお目にかかれないようなハンサムです。
「来年だと思っていましたわ」
そう聞いていたのです。
「ええ、でも、ソニア王国に行かれるし、伯爵に陞爵されたので、早く婚約パーティを開く事になったのです」
ああ、ソニア王国って、恋愛関係が激しいとの噂を聞いた事があります。
それから、私達は、婚約パーティに相応しいドレスの為に一致団結して挑みました。
「お嬢様が他の令嬢に負けてはいけないのです!」
メアリーさんの叱咤激励! そうなんですよね。
ペイシェンス様は、まだ十三歳! 他の社交界デビューしている令嬢は十五歳。
この二歳の差を埋めなくては! 靴は白のハイヒール! それに半貴石を縫い付けた豪華な物です。
お胸も……発達前ですので、中に薄くパットを縫い付けます。
あからさまに見えない程度に、少しだけです。
ウエストは、細いから問題はありません。令嬢の中には、少しふくよかな方もおられて、コルセットで締め上げる必要があるのです。
正式なドレスなので、白が基本ですが、裾には青の極小ビーズを散りばめて、少しずつ上にと伸ばしてあります。
これは、パーシバル様の瞳の色だとメアリー様が選んだのです。
「ああ、宝石も買わなくては!」
ダイヤモンドの正式な三点セットは、他のドレスと共に、ソニア王国に送ってあります。
「お嬢様を説得しなくては!」と手を握りしめているメアリーさん。
こうして、婚約パーティの準備はできました。
「お嬢様……とても美しいですわ」
メアリーさんは、お嬢様が赤ちゃんの頃からお世話したので、婚約パーティを迎えて感無量みたいです。
でも、本当にお嬢様は綺麗だったし、皆も努力の甲斐があったと満足しています。
お嬢様は、いずれは私をアップタウンのドレスメーカーのマダムにしたいと言われていますが、もう少し、お側にお仕えしたいです。
だって、お嬢様の頭の中には斬新なドレスのデザインがまだまだ有りそうなのですもの! 離れるなんて、できませんわ!




