収穫祭のダンスパーティ
収穫祭のダンスパーティの為に、急いで裁縫室に向かった。
中等科の在校生で、収穫祭の出し物に関係していない人は、早々と着替えて場所を開けてくれた。
「ペイシェンス、お願いするわ!」
マーガレット王女、リュミエラ王女は、最後の出し物だったからね。一緒に着替えて、髪型もアップに変えなきゃ!
「ペイシェンスにこうして髪を整えて貰うのも最後なのね」
感傷的なマーガレット王女だけど、ソニア王国訪問が控えているんだ。
勿論、女官や侍女が付き添うけど、急ぐ時は手伝うかも?
二人の髪型を整えてから、自分もおめかしする。
リリーナのドレスが心配で、共布で髪飾りを作ると裁縫の授業に参加したんだ。
青いドレスに銀ビーズの刺繍。ちょっと目立ちすぎ? その上、共布の銀ビーズ刺繍付きの髪飾り。
手早く髪を結い上げる。とは言っても、まだ顔立ちは幼いから、きっちりと結い上げると変なんだよね。
だから、編み込みを使って、少し子供らしさも残した髪型。
そこにカチューシャ風に髪飾りを留めたら、なかなか良いんじゃないかな?
眉は朝に描いたままだけど、リップは塗り直すよ! そろそろ、カカオバターのリップクリームが無くなりそうだから、作らなきゃね。
「まぁ、ペイシェンス! なんて綺麗なの!」
マーガレット王女に褒められたけど、綺麗なのはマーガレット王女だよ。
今夜は、監視の目が緩い中で、パリス王子と踊れるんだからね。輝いている!
まぁ、私とパーシバルは、緩いお目付役だよ。
だって、私とパーシバルもダンスパーティを楽しむつもりなんだもの!
エリザベスとアビゲイルも、美容の授業のお陰で、まぁまぁの髪型だけど、ちょこっと手直ししてあげる。
「ふぅ、ペイシェンス様が寮から居なくなられたら、これからどうしたら良いのかしら? あっ、また新作のドレスを作って貰いたいわ!」
お洒落なエリザベスは、マダム・マグノリアの太いお客様だね。
「これまでペイシェンス様に甘えすぎていたのですわ。でも……わからない事があったら、お屋敷に尋ねに行っても良いでしょうか?」
アビゲイルは、結婚したら家庭を自分で仕切りたいと思っているから、家庭数学はまだマシな方だけどね。
「ええ、いつでもいらして下さい」
そんな事を言ったものだから、マーガレット王女の目が光った。
「パリス様がペイシェンスの料理をべた褒めされるのよ。チョコレートやお菓子、それに一度、サンドイッチは頂いたけど……」
エリザベスがマーガレット王女の続きを言う。
「卒業パーティを開きましょう! ペイシェンスの料理を食べてみたいの!」
「お別れ会はしたいと思っていたのですが……期末テストは大丈夫ですか?」
全員が酢を飲んだような顔になった。
「お勉強会とお別れ会を合同でしたら良いのよ!」
マーガレット王女はめげないね。
「ええ」と言ったけど、大丈夫かな?
「ペイシェンス様……」
リリーナ、ドレスも何とか間に合い、アイロンも掛けたみたいだけど……変なシワが付いている。
髪も自分でできるハーフアップに、髪飾りを付けただけ。
それでも、凄い美人なんだけどさ。
「綺麗になれ!」とドレスの変なアイロンシワを消して、髪もちゃちゃっとアップにして、髪飾りを付けると……絶世の美少女!
「ありがとうございます……私も参加しても良いのでしょうか?」
「ええ、勿論!」
キャメロン先生が「皆様、そろそろダンスパーティが始まりますよ!」と声を掛けたので、私達も出ていく。
「「「きゃぁぁ!」」」
押し殺した嬌声は、パリス王子とパーシバルが教室の外の廊下で待っていたからだろうね。
他にもエスコートする男子学生は多いけど、あの二人の周りの空気、キラキラしている。
「さぁ、ペイシェンス!」
スッとパーシバルが手を差し出してくれる。
女学生達の視線が突き刺さる気がするけど、私は婚約者なんだ。
にっこりと笑って、パーシバルの手を取る。
「とても綺麗ですよ! それ、ペイシェンスが縫ったのですか?」
裁縫の授業でドレスを縫うのは、中等科三年の女学生も騒いでいたから、パーシバルも知っているみたい。
「ええ、私のは刺繍を頑張り過ぎたみたいです」
「いえ、素敵なドレスを着たペイシェンスをエスコートできるのは、とても嬉しいです」
パーシバルって、褒めるのが上手いから、嬉しい!
マーガレット王女とパリス王子も、仲良くお話ししているけど、私とパーシバルは卒業生組なので、暫し別れる。
ダンスパーティが行われる横の控室には、中等科三年ばかり。
でも、カエサルやアーサー、それにアルバートなど見知った顔もいるから、少しホッとする。
女学生は、ドレス姿だけど、男子学生は制服なんだね。
そして、女学生をエスコートする卒業生もチラホラ。
ルーシーは? いたいた!
「えええ、アンドリューにエスコートを頼んだの?」
私が驚いていると、パーシバルも気がついて笑っている。
「卒業生は、カップルで登場しますからね。相手がいない場合は、普通はクラスメイト同士で組むのですが……男子学生は余ってしまうので、同じクラブの下級生を……」
カエサルやアーサーは? と心配したけど、クラスメイトをパートナーに選んでいた。
アルバートは、音楽クラブのメンバーだ。
ドキドキが止まらないけど、そろそろダンスパーティの始まりだ!
「本年度の卒業生の入場です!」
ラッセル学生会長の言葉で、音楽に乗って卒業生が入場する。
「ペイシェンス、行きましょう!」
パーシバルが元学生会長だったので、先頭なんだよね。
でも、パーシバルが落ち着いた様子でエスコートしてくれるので、何とかお淑やかに歩けた。
卒業生全員が入場したら、ダンスパーティの始まりだ。
私は、パーシバルの上手いリードに合わせてクルクル回る。
徐々に在校生達も踊りに加わる。あっ、マーガレット王女とパリス王子だ!
リュミエラ王女は……リチャード王子が来れなくて寂しそう。
「パリス王子が誘われますよ」とパーシバルが心配しなくても良いと笑う。
「その間、私はマーガレット王女とお話ししていますわ」
パーシバルとダンスするのは楽しいけど、やはり踊りっぱなしは疲れちゃうからね。
二曲目は、パリス王子が従姉妹のリュミエラ王女と踊るのを、マーガレット王女と一緒に見ながら、話をした。
「ペイシェンス、本当に私の側仕えになってくれてありがとう」
「いえ、本当にマーガレット王女の側仕えになって良かったです」
二人で、少しだけしんみりしちゃったけど、その後はダンスしまくったよ。
リュミエラ王女は、アルバート達も誘って踊っている。
音楽クラブとコーラスクラブとグリークラブ、仲良く活動できて良かったよ。
カエサル、アーサー、ベンジャミン、ブライス、ミハエル、錬金術クラブメンバーとも踊った。
私が他の男子学生と踊っている間は、パーシバルがリュミエラ王女やマーガレット王女の相手。
「そろそろ寮に戻りますわ」
マーガレット王女、リュミエラ王女、エリザベス、アビゲイル、寮組と一緒に戻る。
ああ、明日の卒業式で、この部屋ともお別れなんだな。
少しセンチな気分になったけど、卒業式のパーシバルの総代としてのスピーチは楽しみなんだ!
学長の話が長くないと良いけど……と思いながら、寮の最後の夜を過ごした。




