表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に来たけど、生活魔法しか使えません  作者: 梨香
第一章 王立学園初等科

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/761

音楽の女神……アルバート視点

アルバート視点の話です。

 私はアルバート・ラフォーレ。ラフォーレ公爵家の次男だ。お陰で一生、音楽に没頭して暮らせる。兄上(チャールズ)は、貧乏籤を引いたな。父上も音楽にしか興味がないので、兄上は大学を出ないうちから領地経営に忙しくしている。

 私は王立学園の中等科になり、仕方ないから文官コースを選択した。芸術家コースが無いとは嘆かわしい。さっさと必須科目の修了証書を取り、音楽に没頭したい。

「アルバート、音楽クラブには新メンバーは入ったのか?」

 魔法使いコースを取った変人のカエサルに話しかけられた。彼奴はバーンズ公爵家の嫡男だ。気の毒な話だ。彼奴の父親はバーンズ商会などを立ち上げて、家の兄上(チャールズ)などに崇拝されている。彼奴は錬金術にしか興味がないのに、嫡男だからいずれは、商会や領地経営などをしなくてはいけないのだ。

「さぁ、音楽クラブはメンバーの推薦がなくては入部を認めないからな。そう言えば、メリッサ部長が確かマーガレット様が推薦されるとか言っていたな」

 彼奴が珍しく羨ましそうな目をした。

「錬金術クラブにはなかなか初等科は入ってくれないのだ。一昨年、ベンジャミンが入ってから、誰もだ」

 何を言いたいのか分かった。つまり錬金術クラブは廃部の危機なのだ。

「今は何人だ?」

「今は5人だが、そのうちの2人は6年生だ。その上、私に部長を譲るぐらいだから当てにできない」

 学生会の規則ではクラブは5人以上いないと廃部になる筈だ。だが、所詮は他人事だ。

「頑張って勧誘するんだな」と言い捨てて、音楽クラブに急ぐ。今日はマーガレット王女の推薦する新入メンバーが来るのだ。カエサルの愚痴なんか聞いている場合では無い。

 クラブハウスに着いたが、マーガレット王女はまだ来ていない。あの学友達と無駄話でもしているのか?

 やっとマーガレット王女が学友3人と新入生を連れてやってきた。

「マーガレット様、こちらが推薦された新クラブメンバーなの?」

 メリッサ部長が声を掛ける。

「ええ、メリッサ。丁度良かったわ。皆さん、こちらが私の側仕え、ペイシェンス・グレンジャー。音楽クラブに推薦するわ」

 メリッサ部長はにっこりと笑い握手している。そんな事よりペイシェンスとやらは音楽クラブに入る資格があるのか? 

「ようこそ音楽クラブへ。ここでは身分なんか気にしないで自由に音楽を競い合うのよ。私は部長のメリッサ・バーモンド。こちらは、副部長のアルバート・ラフォーレ」

 ペイシェンスは、ガリガリでチビの女の子だった。紹介されたので会釈はしておこう。

「ねぇ、早速だけど、何か演奏して欲しいわ」

「そうね、私も聞きたいわ」

 マーガレット王女の学友達は性格が悪い。だが、私も聞きたいから黙っておく。

「そうね、ペイシェンス、昨日渡した新曲をお願いするわ」

 なんと、ペイシェンスは私の作った新曲を弾いた。あの譜面をマーガレット王女に渡したのは、つい最近だ。

「まぁ、さすがビクトリア王妃様が選ばれた側仕えだけあるわね」

 キャサリンは褒めていたが、私は不満だ。

「でも、もう少し情感を込めて欲しかったな。譜面どうりでは味気ない」

 一応、改善点を伝えておく。まぁ、ペイシェンスの腕前はそこそこだ。

「まぁ、昨日一度しか弾いて無いんだから仕方ないじゃない。アルバートの曲だからと意地悪しては駄目よ」

 マーガレット王女の言葉で驚いた。一度であの程度弾けるなら合格だ。

「でも、作曲できないといけませんわ」

 マーガレット王女の学友のハリエットは見た目は甘いが、底意地が悪い。だが、その通りだ。

「そうね、新しいメンバーに新しい曲を期待してしまうのは分かるけど、少し慣れてからにしましょう」

 メリッサ部長は纏めるのが上手い。その後は、次々とメンバーがハノンやリュートやフルートを演奏した。私もリュートを弾いた。

 全員が弾いた後、マーガレット王女がペイシェンスにもう一曲弾くようにと言い出した。

 マーガレット王女が持っている新譜は全部弾かれているし、有名な曲も演奏済みだ。どうするのだろう? まだほんの子供なのに気の毒だとは思ったが、ここは音楽クラブなのだ。才能が無いなら、マーガレット王女の側仕えでも居る資格は無い。

『何か名曲を弾くのだろう?』あまり期待していなかった私はペイシェンスの弾くハノンの曲に心を揺さぶられた。

 明るく、軽快で、まるで天上から舞い降りた音楽の女神が弾いている曲のようだ。だが、美しい女神の降臨はあっという間に過ぎ去った。

「申し訳ありません。タッチミスしてしまいました」

 皆がシーンと静まっている中、ペイシェンスがタッチミスを謝っている。

「いや、指のタッチミスなんか問題ないよ。君、ペイシェンスだったっけ。凄い才能だよ」

 私はハノンの前に座っているペイシェンスの横に跪いて、手にキスをした。この手があの天上の音楽を生み出したのだ。愛しい手に頬ずりする。このまま屋敷に連れて帰りたい。

「アルバート、私の側仕えに勝手な真似は許しませんよ」

 マーガレット王女がそれを阻止した。仕方ない、今日は我慢しよう。いつかペイシェンスの音楽と共に生きるのだ。


 それからもペイシェンスは素晴らしい新曲を作った。本当にマーガレット王女の側仕えなどしている場合では無いのにと腹が立つが、どうやらビクトリア王妃様が決められた事らしいので仕方が無い。

 青葉祭には音楽クラブは新曲発表をするのが伝統だ。私も素晴らしい超絶技巧の新曲を作曲中だ。ペイシェンスにはどんどん新曲を作って貰いたい。何故ならマーガレット王女の腰巾着共の新曲とやらは昔の曲の焼き直しに過ぎないからだ。あれでは音楽クラブの恥になる。だから才能ある者は、無き者に与えるべきだと考えている。やっとペイシェンスが来た。

「ペイシェンス、新曲の楽譜はできたのか?」

 一刻でも早く楽譜を見たいと思うのに、マーガレット王女は自分は既に聞いているからか注意をする。これが逆なら飛びついていただろう。

「アルバート、少しは落ちつきなさい」

 マーガレット王女はまだ良い。彼女は音楽を心から愛しているからだ。だが、3馬鹿娘は許し難い。

「あまりにもペイシェンス様ばかり新曲の発表をされるのは如何なものかしら?」

「マーガレット様、ペイシェンス様もお疲れになりますわ」

 などと口にする。お前らの腐った根性は見え透いている。ペイシェンスの才能に惚れ込んだマーガレット王女の気を引きたいだけだ。腰巾着共め!

「何を馬鹿な事を言うのだ。ここは音楽の才能を競うクラブだ。キャサリン様、ハリエット様、リリーナ様、貴女方も新曲を何曲も提出したら良いだけではないか」

 私の正論に3馬鹿娘は、感情論で反撃する。全く脳味噌は無いのか? 思わず激論になってしまった。低次元の言い争いなどしたくないのに。

「ペイシェンス、暇そうね。ハノンで新曲を弾いて」

 マーガレット王女も3馬鹿娘には呆れたのだろう。ペイシェンスに新曲を弾くように命じた。あんな奴らに構っている場合では無い。

 私は椅子に座ってペイシェンスの新曲を聴く心の準備をする。前の数曲は軽快で明るくて素晴らしかった。今回のも同じなのだろうか? 期待で胸が高鳴る。

 流石にあの文句をつけていた3人も椅子に座った。よし、ペイシェンス、弾くのだ!

『これは天上の調べだ。なんと美しく輝かしい曲なのだ。ペイシェンスは音楽の女神の化身なのか?』

 胸に染み込む調べに私は曲が終わっても動けなかった。ああ、こんな音楽と一緒に生涯を過ごしたい。

「ペイシェンス、私と結婚しないか!」

 私はペイシェンスの前に跪き、あの輝かしき調べを奏でた手にキスをして、プロポーズする。これで、私はあの素晴らしき音楽と共に生きられるのだ。ペイシェンスも恥ずかしいのか頬を赤らめている。父上もこのペイシェンスの音楽の才能には脱帽され、結婚の許可を下さるだろう。

「アルバート、私の側仕えを取らないで」

 なのにマーガレット王女に拒否されてしまった。何故だ?

「キャサリン、ハリエット、リリーナ、貴女方もペイシェンスに負けないような新曲を作りなさい」

 この点はマーガレット王女の言う通りだ。あの3馬鹿娘も黙って頷いている。

「あのう、お願いがあるのですが、よろしいでしょうか? 私は新しいフレーズを思い浮かべるのは得意なのですが、それを曲に磨きあげたり、楽譜に起こすのは苦手なのです」

 ペイシェンス、何て事を言うのだ!

「そうね、皆にフレーズを提供して、新曲を作って貰えば良いのよ」

 それではペイシェンスの発想が無駄になる! それは豚に真珠だ! 素晴らしき曲の種をドブに捨てるのか!

 なんたる事だ。マーガレット王女はいっぱい新曲が聞きたいとお許しになった。ああ、私はあの3馬鹿娘がペイシェンスの曲を駄目にしないように見張らなくてはいけない。

 そうだ! 青葉祭には父上もお呼びしよう。きっとペイシェンスの才能に惚れ込まれるに違いない。私も偶には親孝行をするのだ。そして、ペイシェンスとロマノで音楽サロンを開くパトロンに父上にはなって貰おう。


 青葉祭での音楽クラブの新曲発表は素晴らしかった。こんな素晴らしき新曲発表会は入部して以来経験した事が無い。

 私は超絶技巧の新曲とペイシェンスの『メヌエット』『アイネ・クライネ』を弾いた。父上は大層感激されたのか『ブラボー』と叫ばれていた。少し私も恥ずかしく感じたが、音楽愛のなせる業だ。仕方ないだろう。

 それにしても、マーガレット王女の学友は何故選ばれたのか首を捻るな。何が面白いのか騎士クラブの試合を見たいと駄々を捏ねて、午後からの新曲発表に回った。騎士クラブのパーシバルを追いかけているのだろうが、彼奴は馬鹿な女を相手にするような男ではない。だいたいマーガレット王女の学友なら共に青葉祭を過ごしても良いのでは無いか? ペイシェンスは側仕えとして、マーガレット王女と共に行動している。あの3馬鹿娘も少しは見習えば良いのだ。

 コーラスクラブの発表はお粗末の一言だ。古臭い曲を歌って何が楽しいのか意味が分からない。その上、午後の音楽クラブの新作発表会が少し時間が長かったと、学生会にまで文句をつけに行った。そのせいで、何人かは1曲しか披露出来なかった。彼奴らは音楽を愛してはいないのだ。マークス・ランバートとはAクラスで一緒だ。彼奴なら古臭いコーラスクラブに不満を持っているだろう。少し突っついておこう。

 青葉祭が終わったら期末テストだ。下らない法律や行政などの修了証書を貰うぞ。空いた時間は音楽に没頭しよう。


 夏休み、ラフォーレ公爵家に王妃様一行が夏の離宮に行く途中に寄られる事になった。父上や兄上は、準備に忙しいようだ。私は、当日、お迎えに出て、昼食を共にするだけだ。

 おや、ペイシェンスがいる。そうか、マーガレット王女の側仕えだから夏の離宮に招待されたのだな。あの3馬鹿娘に意地悪されているから、それくらいの骨休めも必要だろう。

 父上はビクトリア王妃様をエスコートして屋敷に入る。そして兄上はリチャード王子とキース王子の接待役だ。私はマーガレット王女と同じ音楽クラブだから、接待を命じられている。

「ペイシェンスにリュートを習わせようと思っていますの」

 おお、それは良い!

「リュートを習うのは良い事だ。作曲の幅が広がるよ」

 ペイシェンスはハノンは上手いが、他の楽器は弾けない。これは改善しなくてはいけない。あの天賦の才能を伸ばすべきなのだ。

 昼食会は無事に終わった。母上が亡くなられているので、王妃様をキチンともてなされるか父上と兄上は気を使っていたので、私も安堵する。

「美味しかったですわ。それに素敵な演奏でした」と王妃が感謝を述べて席を立たれた。これでやっと夏休みになる。これまでは屋敷が騒ついて音楽に集中できなかったのだ。

 ペイシェンスが馬車に乗ろうとしている。ちゃんと言っておかなくてはいけない。

「ペイシェンス、夏休みに新曲をいっぱい作るんだぞ」

「あの時の学生だ!」と父上が騒ぎ出した。気がついて無かったのか? 父上は私より音楽馬鹿だ。ペイシェンスがハノンを弾いていなければ、判別できないのだろう。

「アルバート、あの子は誰なのだ」

 紹介されたのも覚えてないのか。

「ペイシェンス・グレンジャーですよ」

 兄上は覚えている。うん、これならラフォーレ公爵家も安泰だ。つまり私の面倒も見て下さるだろう。

「青葉祭の素晴らしい新曲はペイシェンスが作ったのか? お前の超絶技巧曲も素晴らしく思ったぞ。だが、気持ちが浮き浮きする軽快な曲や、心が洗われる『メヌエット』は聞いた事が無い曲だ」

 父上も大絶賛だ。これならペイシェンスを嫁にと言っても反対されないだろう。

「それほどお気に入りなら、後添えにされては如何ですか?」

 私は唖然とした。我家の常識人と思っていた兄上が何たる事を言い出すのか!

「それは……少し年が離れ過ぎている。そうだ! 楽士として雇うのはどうだろう?」

 あっ、そう言う道も有りかもしれない。ペイシェンスを我家の楽士にすれば、常にあの音楽と一緒だ。兄上は父上がペイシェンスの音楽の才能に入れ上げる前に釘刺したのだ。7歳も年下の義母など兄上がお認めになる訳が無い。

 私の嫁ならいけるのだろうか? 父上の説得より、兄上の方が手強そうだ。まだペイシェンスは10歳の子どもだ。もう少し先に考えよう。私は音楽愛を理解しない学生から変人と呼ばれているが、10歳の子供に手を出す変態ではない。プロポーズしたが、結婚は卒業してからだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言]  変人(セクハラ)と身勝手(パワハラ)しかいないのか…(*´・д・)強く生きてペイシェント
[気になる点] まだ結婚する気はない……! とか言いつつ手やら足やらキスするのは我慢できなさそう。 グレンジャー家の状況を知ったら家族総出で支援しそう。 (兄は不明) [一言] ジャンル違いではある…
[良い点] このアルバート様の心情が拝読できる頁、好きです!(*^¬^*) 音楽以外にも、側仕えの立場や行動、案外ちゃんと把握していて、音楽バカとは少し違うかと。 お父さんより、しっかりしてる気もしま…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ