飛び級しても一緒なんだね
マーガレット王女と授業は別なのはありがたい。とはいえ、学年を飛び級して2年Aクラスに行くのは初めてだ。
ホームルームもあるし、本当はもっと早めにクラスに行くつもりだったが、マーガレット王女が寝坊したのでギリギリだ。
「おや、ペイシェンス遅かったね」
担任のケプナー先生は既にクラスにいた。
「学年を飛び級したペイシェンス・グレンジャーだ。仲良くしてあげなさい」
わぁ、また自己紹介なの? 苦手!
「宜しくお願いします」と頭を下げるだけにする。すると、ドタバタと何人かの生徒が席を立って出て行った。
「はい、席を詰めなさい」パンと手を叩くと、慣れている様に窓の方へと席を移動する。
呆気に取られている私にケプナー先生は「空いている席に座りなさい」と告げる。前のクラスは身分順の席だった。私は今いる生徒達の一番後ろの席に着いた。
授業開始の鐘が鳴る直前、何人かがバタバタとクラスに入ってきた。おっと、キース王子達だ。1時間目は数学だから、一緒なんだね。
やはり身分順なのか、空いている席の前からキース王子、ラルフ、ヒューゴと座っていく。そっか、2年Aクラスの生徒も飛び級して席が空いているんだ。
ということは、2時間目の国語はルイーズや女子も多く飛び級していたな。ルイーズに側仕えについて何か言われなければ良いけど……とか考えながら数学の授業を聞く。
うん、これは楽勝。修了証書が欲しいな。退屈だもん。多分、初等科は小学校高学年から中学ぐらいで、中等科で中学から高校程度だと思う。
高校の数学は復習が必要だけど、合格出来そうだ。数学は3コマあるから、それが浮けば内職の靴下とか持って来てかなり稼げる。なんて不純な事を考えているうちに数学は終わったみたい。
国語は大勢の学生が移動する。私もより窓側に席を移動する。なんか面倒くさいな。何人かは同じ席に居座っている。私も何処か席を決めようなんて考えて教室を見渡していると、ルイーズが急接近した。
「ペイシェンス様、ごきげんよう」
「ルイーズ様、ごきげんよう」
私は、数学の教科書を机にしまい、国語の教科書を出すのに忙しいふりをする。でも、相手はルイーズだ。それで諦めてくれない。
「ペイシェンス様はマーガレット王女様の側仕えになられたと聞きましたが、本当でしょうか?」
「ええ、側仕えになりました」
ガバッと机の上に身を乗り出し、私の耳元でルイーズは尋ねる。
「どうやって側仕えになったの? 教えて」
かなり必死の様だ。そんなに側仕えになりたいなら代わって貰いたい。昨夜と今朝で既にうんざりしている。
「父にビクトリア王妃様からマーガレット王女の側仕えになる様にと手紙がきました」
これは自慢じゃなくて事実を述べただけだよ。でも、ルイーズは違う風に取ったみたい。
「まぁ、そんなに自慢しなくて良いではないですか。それに私達は友達ですもの。どうやってビクトリア王妃様に側仕えにして頂いたか、教えて下さっても良いでしょ」
いつからルイーズと友達だったのかな? まぁ、ルイーズが側仕えになってくれたら、私は外して貰えるかも。なんて気楽な事を考えていたら、他の女子から文句がでた。
「ルイーズ様、ずるいわ。1人だけマーガレット王女の側仕えになろうとされるなんて!」
お淑やかな筈の令嬢達だが、まるで前世のバーゲンセールのワゴンに群がるオバ様に見える迫力だ。そのセールワゴンが私でなかったら笑えるのだが……そうだ!
「マーガレット王女のご学友が寮に入られなかったので、寮生活の側仕えなのです」
一斉に女子達が黙った。皆、ロマノの屋敷から通っていたからだ。寮には家族も居ないし、メイドもいない。不便だよね。普通の令嬢には。
「貴女しか寮生はいなかったから、ビクトリア王妃様は側仕えに選ばれたのね」
ルイーズ、何だかとっても失礼な発言だよね。でも、まだ側仕えを諦めてない様な目が怖いよ。まぁ、頑張って! ルイーズが楽な屋敷暮らしを捨てて、寮に入る根性があるなら、マーガレット王女の側仕えになれるよ。朝、叩き起こしてね!
そんな騒ぎをキース王子が見ていたなんて、私は知らなかった。




