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15 だれこれ

 さてここで問題がひとつ。

 この国王陛下、わたしが聖女ソニアだって、わかっていない可能性について考えてみませんか。


 だってわたしもびっくりしたし。

 丸一日に及ぶ美容コースにつるさらの寝具でたっぷりの睡眠、お化粧に豪華なドレスと宝飾品、わたしでさえ姿見の中のわたしにこれ誰? って思ったもの。はじめて鏡をみたインコみたいになったわよ。ぴょんぴょん。

 いやー王宮美容メイドさん達にかかったら、おばあちゃんでもピチピチの美少女になれると思う。


 要するに別人よ。


 これ、国王陛下もわたしと認識してないんじゃないかしら。

 というか、国王陛下も別人のようなんですが。

 お顔が良いのはもとからなんだけど、正装になると威力が増すというか、それよりなんでわたしの髪に指を絡めたり、綺麗だとか囁いたり、わたしのほっぺたにキスしようとしてプリメイラ様にお化粧が乱れますって注意されてたり、じゃあ、ってこめかみにキスしたり、こんなことする方だったっけ?

 

 わたしの知ってる国王陛下はもっとすんってしてて、無表情でお茶を飲んでいて、会話もあんまり弾まなくて、あと……。

 なんだかこんな甘い顔をしていつも食べ物をくれて。


 あれ? もしかしてやっぱり国王陛下?


 どうしていいのかわからないまま、声がかかった。


「国王陛下並びに聖女様」


 並びに、って。

 国王陛下と並んでどうするの。

 やっぱりこれ人違いじゃないの?


 ファンファーレが鳴り響いて、国王陛下がわたしの手を取って歩き始める。一段高い大広間の最奥、おおお王座があるところ。


「皆、私の誕生祝いの夜会によく来てくれた」


 わたしの手を取ったまま、国王陛下が挨拶を始めた。

 とりあえず顔に貼り付けた聖女スマイルで微笑んでいるつもりだけど、今どんなしてるのか自信がないわ。膝は震えて生まれたての子鹿みたいになってるけど、ドレスの下だから多分バレてない。

 国王陛下のコールに混ざって、聖女様ーとか聞こえる気がするけど、今国王陛下が何を仰っているのかもわからないわ。

 今人生で一番帰りたい。

 帰ってお布団にくるまって寝たい。


「そして、今日は十七歳になった聖女ソニアの、夜会デビューでもある」

 

 え?

 今わたしのこと何か?


 なんだか名前を呼ばれた気がしたので、ここ数日でみっちり仕込まれたカーテシーをしてみた。ちなみに国王陛下は手をはなしてくれない。

 盛大な拍手と聖女様って呼ぶ沢山の声。

 今のタイミングでよかったみたい。心臓が口から出そうなんだけど。聖女スマイルは崩れていない、つもり。


 ねえもしかして、これって国王陛下の婚約者確定してないかしら。こんな夜会にわたしをパートナーにしてしまったら。並びになんて紹介されてしまったら。

 新しい聖女様が見つかるのが、待てなくなったの?


 今までわたしは聖女として人前に出る仕事はしてこなかった。平民だしとりたてて美人でもないし、癒しの力が強いわけでもないから、ただ聖堂で祈っていれば良い存在だったの。それは次の血筋の良い、国王陛下に相応しい聖女があらわれるまでの中継ぎだからだと思っていたのだけど。

 

 こんなふうにデビューしてしまって、わたしののんびり田舎の教会ライフ計画とか、どうなるの?


 こわばったままの笑顔のわたしをしっかりホールドした国王陛下は、巧みなリードでわたしとファーストダンスを踊った。

 ステップは叩き込まれていたから自然に体は動いたけど、国王陛下の足を踏んだかどうかも記憶にないわ。

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