14 なにこれ
連日学校終わりに王宮へ向かって、今日は何の勉強だったかわからなくなるくらい疲れてきた頃。
いやほんとになんで今頃になってこんなにぎゅうぎゅう詰め込まれているのかな。今までもサボっていたわけじゃないのにね。
「ソニア、今日はこっちですよ」
危うく王宮内で部屋を間違えそうになったところで、プリメイラ様に手を引かれる。あぶないあぶない。ちょっとわけがわからなくなってきていたわ。
「ありがとう、うっかりしてました」
「いえいえ、伝えてなかったので」
は?
いつものようにニコニコしながら、プリメイラ様が客室のドアを開けて、反射でわたしが部屋に入ると、ドアと鍵が同時に閉められた。
え?
いつもと違う部屋。お仕着せを着たメイドさんっぽい女性が複数、わたしを取り囲んでいた。
部屋を間違えたかとドアノブを回したけど、さっき鍵がかかった音がしてたもの。やっぱりノブは回らなかった。
「失礼致します。聖女様」
メイドさんたちがわたしとの距離を詰め、わたしに手をかけた。
ひえ、事件!
……ではなく。
メイドさんたちに制服を剥ぎ取られたわたしは、そのままお風呂に連れ込まれて、身体を洗われて髪を梳られて、色々塗り込まれてマッサージを受けています。イマココ。極楽です。
なんだこれ。
数人がかりで顔から体まで揉まれて、その間延々とディスられました。久しぶりに。
「毛先はカットいたしましょう。傷みが酷いです」
「こんなに日焼けして、そばかすまで」
「爪も手入れが必要です」
「この固い肩には何が入っているのでしょう」
主にわたしが身だしなみに手を抜いていたことを。わかっていたけど、別に誰も気にしないからいいじゃないと思って、いたんだけど、ダメだったようで。
調味料をすり込まれて揉まれてオイルを塗りたくられて、多分今油で揚げたらいい感じのメインディッシュになるんじゃないかと半分寝落ちながら考えていたら、わたしを見捨てたプリメイラ様が部屋に入ってきた。
「見違えました。とても綺麗です」
「プリメイラ、なにこれどういうこと」
両手を合わせて、ぱああっと花が咲きそうな良い笑顔のプリメイラ様に、鏡越しに聞こうとしたら、メイドさんにあごと頭をぎゅっと持たれて首を戻された。今はドレッサーの前に座ってまた顔に色々すり込まれてながら、ボロボロらしい毛先を整えてもらっているところ。動いちゃいけないらしい。
「この数日ルームメイトとしてご一緒してまして、ソニアの身体のメンテナンスは半日じゃ終わらないと判断したのです」
「半日?」
何これまだ続くってこと?
首を傾げようとして、また頭の位置を戻された。
「明日の夜会に間に合わせるのには今日から準備しても遅いくらいですから」
「夜会?」
「国王陛下の誕生日の夜会ですが?」
知ってて当たり前みたいにプリメイラ様が言うけど、わたし知らないからね!
と思っていた時もありました。
わたしは今国王陛下の夜会の主賓席の袖で、出待ちをしています。いつのまにかドレスが誂えてありました。国王陛下に連れて行かれたあのクチュールメゾンのドレスです。ということはあの採寸は制服ではなく、このドレスを作るためだったようです。
ドレスは白から裾に向かって重ねられたシフォンがグラデーションになって、裾が藍色に、シフォンにはあのメゾンで見た意匠の刺繍が施されています。
ちなみに指輪はあれだけ揉まれてもすり込まれても外れもせず、メイドさんたちはあって当然みたいに何も触れてくれませんでした。
髪は緩く巻いて、半分だけ編んで結いあげて、重い髪飾りがシャラシャラ鳴っています。気が散って仕方ないです。
プリメイラ様も伯爵令嬢らしくドレスアップして控えてくれていますが、騎士なのでドレスアップといっても騎士服です。儀礼用の正装。やっぱり制服が一番じゃないかと思うんだけど。正装のプリメイラ様、めっちゃ美人。
なんだか口調が丁寧なのは気のせいです。というか、着慣れないドレスとヒールで動揺して何がなんだかわかってないです。転ばないように踏ん張ってるので精一杯。
何より気になって仕方ないのは、今日の主賓である国王陛下が今わたしの隣で一緒に出待ちをしています。
しかも近い。顔近い。なんならこめかみにキスとかされてますが。
なにこれ。
なにこれ。




