12 お友達ができました
黒蝶貝のボタンには、とてもいい感じに魔力を込めることができた。
魔力を魔法媒体に込めるやり方は上級学校で教わる。そこそこの魔力がないと、魔力が枯渇して生活魔法も使えなくなる。上級学校に行けるレベルの魔力がないとちゃんとした魔法媒体を作るのは難しい。少ない魔力を毎日ちょっとずつ込めて、お守りというか気休めというか、そんなおまじないアイテムを作って好きな子に渡す、なんていうのが流行ったのは初級学校。上級学校ではそういうのの本格的なものを学ぶ。
わたしが込められる魔法は聖女の治癒魔法なんだけど、前世の記憶が邪魔をして、イマイチ治癒の力が弱い。どっちかというと結界魔法寄りになっているんだけど、夜ノ国では結界を使わないからまあほぼ怪我のお守りよようなものしかできない。怪我が気持ち早く治る、ような気がする的な。
役立たず聖女を目指しているから、それで良いのだけど、今回はいつもお世話になっている国王陛下に贈るものだから、ちょっと気合を入れてみた。
結果、わたし史上一番の出来上がりになったように思う。あくまでわたし史上だけど。黒蝶貝と相性が良いのだと思うの。どうも石とかよりも、琥珀とか真珠とか、もとは生きていたものに魔力を込めるほうがわたしは向いているみたい。骨とかどうなのかしらね。やってみたことはないけど。
少し早いけど、この先あまり時間が取れないので、先に送ってしまう。寮母さんに国王陛下宛です、と渡すと手配してもらえるの。普通は国王陛下に直接ものを送るなんてできないらしいけど、わたし聖女なので。特別扱いされていますの。
聖女ってだけで特別扱いしてもらえるのも、今のうちだけだから、ってお嬢様方によく言われていたけど、正にその通りなので今だけ特権を使わせてもらうわ。
わたしだって田舎に帰りたいのを次の聖女があらわれるまで我慢して待ってるんですからね。
国王陛下への贈り物はちゃんと届いたらしく、お礼のカードと花束を持って見たことのない人が来た。
わたしの新しい護衛だそう。
伯爵家の令嬢であるプリメイラ様は女性騎士で、わたしより一つ年上だけど、飛び級して二年前に上級学校の騎士科を卒業したそうで、学校でも見たことがないはずよね。
今まで護衛は離れたところからこっそり見守ってくれていたらしいのだけど、わたしが街へ出たりして、意外な行動をとった時に対応できる人を別に選んでくれた。毎回わたしを探すために国王陛下が出てこなくてもいいように。そりゃ国王陛下も暇じゃないものね。
「これからは常にお供いたしますので、外出時に認識阻害の魔法をかける際には、私にもお願いします」
どうもわたしの認識阻害魔法はクセがあるのか、護衛の人にも見つかりにくくなるそうで、プリメイラ様と一緒にわたしが魔法をかけるなら、お互いを認識できるそうなの。
国王陛下はすぐにわたしを見つけてくれたけど、多分魔力量が違うんだわ。
プリメイラ様もお若いのに騎士になっているということは、かなりの腕だと思うのだけど。相性もあるし、わたしがぱぱっと魔法をかければ良いだけなので別に面倒じゃないわ。
そんなことより、よ。
わたしと一緒に居てくれるということは、プリメイラ様とお友達になっても良いということかしら!
聞いてみても良いのかしら。
もじもじしていると、プリメイラ様の方からソニア様と呼んでも良いですか、と聞かれたので、わたしは力一杯首を振った。
「様なんてつけないでください。わたしは聖女といっても平民です」
「それでは皆に示しがつきません。私のこともプリメイラと、呼び捨てに」
「無理です!」
伯爵令嬢を呼び捨てにする平民なんてありえないでしょう?
そんなことをしたら、また学校でご令嬢方に何を言われるか……そういえば、ご令嬢方も最近わたしに構ってくれなくなっていて、誰にも何も言われないわ。
しゅんとしたわたしに気をつかってくれたのか、プリメイラ様は妥協案を出してくれた。
「では、お友達ということで、お互い呼び捨てにしませんか」
わたしにお友達ができました。王都に来てはじめての!
真紅の美しい髪をしたとても素敵なお姉さま。嬉しい。




