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10 贈り物のつもりが

 わたしがお店に入れなかったのは、認識阻害魔法を強くかけすぎていたせいだったらしい。お店の人にも気づかれなければドアも開けてもらえないし、声すらかかられなかったわけだわ。

 いい感じに調整することを教えてくださった国王陛下は、わたしがアイスクリームを食べ終わるのを見届けると、立ち上がって手を差し出した。


「買いたいものがあったのだろう」


 促されるままに手を取って立ち上がると、声をかけてくださる。もしかして案内してくださるのかしら。珍しく今日はお暇だったのかしら?

 でも、国王陛下への贈り物を国王陛下に選んでもらうのは違う気がするわ。そもそも国費からのお小遣いなのだから、もう国王陛下がご自分の誕生日の贈り物をご自分で買った感じになってしまう。

 だからせめて選ぶのはわたしでないと。

 お店に連れて行ってもらって、自分のものを買うように見せかけて、国王陛下への贈り物を買えばいいかな。

 ちゃんとできるかしら。

 ぼっちが寂しくて、もうひとりでお店に入る勇気がなかったから、国王陛下が連れていってくださるのは嬉しい。なんだったら護衛の方でもいいんだけど、護衛の方だと、認識阻害がかかったわたしを見失うかもしれないんですって。魔法の調整も修行しなくてはね。


 贈り物をどうするか考えてみたけれど、わたしが知っている国王陛下といえば、年に数回お茶会をするくらいで、お好きなものも何も知らない。

 だったらお茶かお菓子にしようと思っていたの。お茶会で出るような高級品は多分手に入らないけど。お好きなお茶の系統なら多分わかる。お菓子はあまり飾りのない焼き菓子がお好きのよう。甘すぎない素朴なもの。でもそういうお菓子ほど、素材や職人のちょっとした工夫で大きく味わいが変わるのよね。

 図書室にあったカタログのお店に行ってみたいのだけど、国王陛下はご存知かな。


 お店の名前を告げると、国王陛下は少し不思議そうなお顔で頷いた。


「菓子が食べたかったのなら、言ってもらえれば調達したが」


 いえいえ違うんです。わたしが食べたいのではなく。

 とは言えなくて。


「お店に並んでいるものから選びたかったのです」

「そんなものか」


 納得していない様子だけど、国王陛下はわたしがはぐれないように手をつないでお店に連れて行ってくれた。

 あんなに入りづらかったお店にも、国王陛下と一緒ならすんなり入れてしまった。

 お店の中には何人かがケースに並べられたお菓子を選んでいて、壁沿いにお茶が陳列されていた。お茶の前にはサシェが置いてあって、香りを確かめられるようになっている。こういうの、やりたかったのよ。カタログじゃ香りを確かめられないもの。



 いくつか手に取って、香りを比べてみる。候補を絞って、国王陛下にも聞いてみる。


「こく……様は、どちらの香りがお好きですか?」


 わたしがまたうっかり国王陛下って呼びそうになったのを、つないでいた手をぎゅっと握って止めてくださる。あぶなかった。


「どちらも良い香りだ。特にこちらの、柑橘の香りは良いね」


 柑橘ですね。

 心の中で候補を絞っていると、いつのまにか国王陛下は空いているほうの手にお菓子を選ぶ籠を持っていた。


「この籠に選んだものを入れるんだ」


 国王陛下はこのお店にも来たことがあるみたい。慣れた様子でお菓子のことを教えてくださる。誘惑に負けて色々選んで籠に入れてしまってから、慌ててこれは国王陛下への贈り物だったと思い出して、わたしも籠を持とうとしたけれど。

 手を握られていて、籠が持てない。

 さすがにお店の中では迷子にはならないわ。

 あからさまに手を離すのも、せっかくのお心遣いを無碍にする気がして、こう、さりげなく離れようとしてみようとしたら、さらにぎゅうっと手を握られてしまった。

 わたしそんなに危なっかしいかしら。

 どうしようかと迷っている間に、国王陛下は籠をお店の人に渡して、会計を済ませてしまった。


 待ってそれは国王陛下への贈り物なの。

 わたしがお支払いしないといけないものなの。


 気がついたら綺麗にラッピングされたお菓子に、さっき選んだ紅茶も一緒に袋に入れられて、国王陛下が持ってくださっていた。

 あれもしかしてこれって不敬?

 何で荷物もちまでさせているの?

 それはわたしの手が握られたままだから。

 でも国王陛下はとても機嫌が良さそうだし、わたしが何か意見する方が不敬?

 誰にも聞けないから正解がわからないわ!


「ソニアの買い物に付き合ったから、今度は私に付き合ってもらおう」


 国王陛下は暇なんじゃなかったのかしら。ご用があるなら仰ってくださればよかったのに。

 わたしで良ければどこへなりとお付き合いいたします。今度はわたしが荷物を持ちますね。

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