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東人剣遊奇譚  作者: 卯月
第二章 眠る人形
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第9話 盗賊の意地



 ランタンを中心に輪になって座る三人は荷物から水筒と固焼きのパンを取り出して頬張る。はっきり言って保存性を最優先にしたパンは食感も悪く不味い。それでも腹に入れなければ空腹になってコンディションを維持出来ないのだから我慢して食べなければならない。それは竜であるクシナも同じだ。彼女は渋面のまま無言でパンを齧っている。それでも文句の一つも無いのは連れの二人が同じものを食べても文句を言わないからだ。それを見かねたヤトが街に戻ったらまた美味しい物を御馳走すると宥めたら彼女は機嫌を直して嬉しそうに食べたい料理を挙げた。

 休憩の後、再び探索を開始した。

 今度は採掘現場に隣接する作業場を探す。これだけ大きな現場ならそばに道具を直す鍛冶場を設置するだろうし、採掘した鉱石を精錬する炉があるはずだ。

 不死者に注意しながら歩き回り、幾つかの部屋を見つけた。

 石の寝台が数十は置かれた仮眠室、壁から水を引き込んだ浴槽のある風呂場、崩れた竈と多数の調理器具の残された食堂など。どれも生活の名残を漂わせる部屋だった。

 そうした部屋にも不死者が残っており、その都度成仏させたものの、未だ価値のある物は見つかっていない。

 一筋の光も差さない無明の闇の中では時間の感覚も狂って今が昼なのか夕方なのかも分からないが、疲労と空腹感からそろそろ探索を切り上げて食事と休息を入れなければならない。

 ヤトが中断を提案するがカイルは難色を示した。


「このまま一日空振りだと悔しいから、あと一つか二つ部屋を探したいんだけど」


「わかりました。なら先に少し休んでから、あと一つ探索しましょう。それでダメなら今日は終わりです」


 本来ならあと少しは危険だが、有無を言わさず押さえつけると不満が溜まる。だから多少妥協して最後の一つを許可した。

 小休憩を入れて、まだ足を踏み入れていない部屋に踏み込む。

 そこは小さな炉のある鍛冶場だった。金床は錆び付いて煉瓦造りの炉も崩壊していたが、床にはキラキラと光る粒がそこかしこに落ちている。カイルが拾ってまじまじと見つめると軽く驚く。


「これ金粒だよ。多分ここで金を溶かして装飾品や調度品を作ってたんじゃないかな」


 今日一日働いてようやく成果になりそうなお宝を見つけたカイルは一気にやる気を取り戻した。三人は慎重かつ大胆に部屋の中を精力的に探し回って倉庫から小さな金のインゴットを一本、銀貨を五十枚ほど発見した。

 成果といえば成果だが、想像より些か貧相な戦利品にまだ納得していない。それにまだこの部屋には何かがあると盗賊の勘が告げている。その勘に従って部屋の床や壁を置いてあった鉄棒で叩いて違和感を探していた。

 こうなると外野が何を言っても耳を貸さないのでヤトは好きにさせた。

 クシナが暇そうに何度目かのあくびをした頃、作業机の奥の壁を叩いた音に違和感を感じたカイルがハンマーで壁を壊すと不自然な空間が見つかった。


「よっしゃー!!」


 喜び握り拳を挙げるが、罠を警戒してすぐに手を伸ばさない。慎重に周囲に罠が無い事を確認してから隠し穴に手を伸ばして中に入っていた物を取り出した。

 中に隠してあったのは二振りの短剣とミスリル製の小箱だった。

 短剣はどちらも錆び一つ無い。それぞれミスリル製とオリハルコン製で装飾の少ない実用品だった。それに柄の部分が幾らか手の握った形にすり減っており、長く使われていた歴史を察せられる。

 小箱のほうは鍵の類は付いておらず、軽く傾けると中で何か動く音がした。フタを開けると中には小さなルビーの嵌め込まれたミスリル製の鍵が一つ入っていた。


「何の鍵だろう?」


「さあ?もしかしたらこの都市の中に合う錠があるかもしれないので大事に保管しておきましょう」


 仮に使う機会が無くても鍵も箱もミスリルなので小物として売れる。取っておいて邪魔にならない。


「で、こっちの短剣はどうしよう。アニキ使う?」


「うーん、僕は脇差がありますし、投擲用には少し大きいですね。今回はどちらも貴方が使ってください。いらないのなら売るだけです」


「じゃあ、ありがたく貰うよ」


 カイルはさっそく腰に差した鉄製のナイフと予備のナイフから鞘を外して戦利品の魔法金属のナイフに使う。そのナイフを二本とも入れ替えで腰に差した。

 ここでヤトから今日の探索の中断が言い渡された。最後の最後で成果のあったカイルは快諾、クシナも異論はなかった。

 三人は鍛冶場から引き揚げ、先程見つけた寝所を今日の野営地に定めた。

 そして早々に夕食を食べてから石の寝台に毛布を敷いて眠りについた。見張りは異常に殺気に敏感なヤトが何かあれば勝手に起きると言って設けなかったが、幸いこの日は不死者も他の探索者も彼等の眠りを妨げることはなかった。



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