表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネトゲの親友に性癖をぶちまけてたら、オフ会に来たのがクラスの美少女︎︎だった  作者: こうと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/41

第23話 お出かけ前、妹

日曜日、午前十時。


 俺――佐藤一真は、自室の姿見の前で、人生最大級の葛藤に身を投じていた。


「……これ、やりすぎか?」


 手に持っているのは、昨日悩みに悩んで購入してしまったカッターシャツだ。

下は無難な黒のワイドパンツ。

派手すぎもしない、だけど清潔感のある服装。


 普段なら適当なTシャツに色褪せたジーンズで済ませるところだが、今日は相手が悪い。


 東雲しののめ凛――ネトゲの相棒であり、俺の黒歴史をすべて掌握している『ハル』。


 そして一ノいちのせ咲希――学園の天使の一角にして、俺を「えっちな目線」の現行犯で脅迫している最強の爆弾娘。


 この実質学園トップ2を相手に、適当な格好で行こうものなら、今夜のログイン時間に何を言われるか分かったもんじゃない。


特にハルからは、昨夜の会議で『ダサい服できたら絶縁する』という、親友らしからぬ非情な宣告を受けているのだ。


「……よし。これでいい。これ以上頑張ると、逆に意識してるみたいでキモいしな」


 自分に声を出し言い聞かせ、髪を軽く整える。

 鏡の中にいるのは、どこにでもいる平凡な男子高校生だ。隣にあの二人が並ぶことを考えると、胃のあたりがキュッと鳴った。


「……何やってんの、お兄。キモいんだけど」


「……!」


 不意に背後から、氷点下の声が降ってきた。

 振り返ると、そこには部屋の入り口に寄りかかり、腕を組んで俺を凝視している妹の双葉ふたばがいた。


「双葉……。お前、ノックくらいしろよ」


「したし。お兄が自分の世界に入りすぎて聞こえてなかっただけでしょ。……何その服。これから誰かのオーディションでも受けるわけ?」


 双葉はポニーテールを揺らしながら、俺を頭の先からつま先まで、まるで不法投棄されたゴミを検分するような目でスキャンした。

 彼女は中学の女子バスケ部員で、俺に対しては常に反抗期全開だ。だが、その観察眼だけは無駄に鋭い。


「……いや、ちょっと友達と出かけるだけだ。ほら、今日は部活休みだしな」


「友達? あー……東雲凛さんのこと?」


 双葉の瞳が、一瞬だけ鋭く光った。

 先週の土曜日、凛が「変装(隠せていない)」をして我が家にやってきたあの日以来、双葉の中での俺の評価は「冴えないオタクの兄」から「学園の女神を何らかの卑怯な手で支配している邪教の教祖」へと変貌を遂げていた。


「な、なんで知ってるんだ……」


「……違うの?」


「……。……まあ、そうだけど」


なんでそんな怖いの。お兄ちゃん泣いちゃうよ?


「…………信じられない」


 双葉は深く、深いため息をつき、頭を抱えた。


「東雲凛さん。……あの、美しくて、バスケも上手くて、後輩の女子からも『様』付けで呼ばれるような聖域サンクチュアリ。そんな人が、よりによって、休日までお兄と過ごすなんて。……東雲さん、前世でどんな大罪を犯したっていうの?」


東雲さんってそんなしたわれてるのか。まぁ俺が知らないだけでファンクラブとかもあるんだろうな。


「お前、実の兄貴をなんだと思ってるんだよ」


「歩く汚物。生きる黒歴史。……ねえ、お兄。正直に言って。あんた、東雲さんにいくら払ってるの? それとも、やっぱりあのドラゴンのシールを使って、何かヤバい催眠術でもかけてるの?」


「かけるか!! ただのゲーム仲間だって言ってるだろ!お金も払ってない!」


「ゲーム仲間が、あんなに甘い空気で部屋に二人きりでいるわけないでしょ。……お母さんだって、昨日から『一真、凛ちゃんにプロポーズするならお赤飯炊かなきゃ!』とか言ってるんだよ? ちゃんと責任とってよね」


「母さんにはあとで俺がしっかり言っておく……!!」


 冷や汗が止まらない。

 家族の認識が「親友」を通り越して「許嫁」に近いレベルまで暴走している。

これを東雲さん知ったら、間違いなく『カズ、あの日のログ読み返してやろっか?』と煽り倒されるに決まっている。


「……ま、いいや。東雲さんの慈悲深さに感謝しなよ。……あ、そうだ」


 双葉がふと思い出したように、ポケットからスマホを取り出した。


「今日のお出かけ。一ノ瀬咲希さんも一緒なんでしょ?」


「――っ!? ……。……。なんでそれを知ってるんだよ」


「昨日、お兄のスマホに『日曜日のカフェ、楽しみだね!』って通知が出てるの、偶然見ちゃったから」


「お前……。プライバシーって言葉、知ってるか?」


「犯罪者のスマホにプライバシーなんてない。……それより、どういうこと? 東雲凛さんだけじゃなくて、一ノ瀬咲希さんまで? ……お兄、ついに学園のトップ2を同時に毒牙にかけたわけ? これ、月曜日には学校中にニュース流れるよ。お兄の葬儀のニュース」


 どうやら一ノ瀬さんも有名人らしい。まぁ、そりゃそうか。

双葉の目は、もはや軽蔑を超えて、一種の畏怖すら感じさせていた。


「違うんだって!! 一ノ瀬さんとは、その、恋愛相談役……みたいな、腐れ縁っていうか……」


腐れ縁?そんなものはない。苦し紛れの言い訳。

容赦なく妹はそんな俺を責め立ててくる。


「……はぁ? 一ノ瀬さんが、お兄に恋愛相談? ……ギャグのセンスまで汚染されてる。……ま、いいよ。東雲さんに嫌われないように、せいぜい頑張れば」


 そう言い捨てて双葉は背中を向け、部屋を出て行こうとした。


 ……だが、ドアを閉める直前。彼女は顔だけをこちらに向け、少しだけトーンを落として言った。


「……東雲さん、あの日、お兄の部屋から出てきた時。……すっごく、嬉しそうな顔してたよ」


「……え?」


「……咲希さんと三人で遊ぶのもいいけど。……東雲さんを悲しませたら、私、本当にお巡りさん呼ぶから。……じゃあね、汚物」


 バタン、と勢いよくドアが閉まる。


「…………」


 部屋に残された静寂。

 最後に双葉が漏らした一言が、やけに重く心に響いた。

 

 あの日。俺の部屋で、二人でゲームの攻略会議をしていた時。

 凛は「カズといると、自分がただのハルでいられる」と言って笑った。

 あれは、俺がハルに対して抱いている「相棒としての安心感」と同じものだと思っていた。

 

 けれど。

 第三者の、それも冷徹な妹の目から見て、彼女が「嬉しそうだった」と言うのなら。

 それは、ただのゲーム仲間の域を、もう超え始めているのではないだろうか。


(……いや、考えすぎだ。あいつはただ、俺をからかうのが楽しいだけだろ)


 俺は首を振り、雑念を払った。

 時計を見ると、待ち合わせまであと三十分。

 スマホを確認すると、LIMEのトークに一通の通知。


【凛:佐藤くん、おはよ。寝坊してないよね?】


 わざとらしく「佐藤くん」と呼びつつも、なんだかそれが彼女の緊張と、そして期待が見え隠れしている気がした。


【一真:ああ、今から出る。東雲さんも、忘れ物するなよ】


【凛:にひひ。了解、相棒。……あ、ちなみに今日。私、気合入れてるから。……歩道橋の上から私を見つけたとしても、私に見惚れて歩道橋から落ちないようにねっ!】


 ……。

 …………。


「……ほんとに、あいつは」


 俺は苦笑いしながらスマホをポケットにしまい、カバンを掴んだ。

 

 ハルは、ただの親友だ。


 三年間、背中を預け合ってきた最高の相棒。

 だから、今日のこの胸のザワつきも、きっと「秘密がバレるかもしれない」というスリルから来るものに過ぎない。

 

 自分に何度もそう言い聞かせながら、俺は部屋を出た。


 リビングでは母さんが「一真、ハンカチ持った!? ガム持った!? 凛ちゃんに失礼のないようにね!!」と騒いでいたが、それを適当にいなし、俺は玄関のドアを開けた。


 外の空気は、少し冷たいけれど、どこか甘い予感を孕んでいる。

 

 学園一の美少女、東雲凛。

 爆弾娘、一ノ瀬咲希。

 そして、その二人の間に挟まれる、ただの相棒――佐藤一真。

 

 俺たちの「親友以上恋人未満」な日曜日が、今、幕を開けようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
妹は口が悪いを通り越してるから、少し修正した方が……とは思うかな。 一応、本当に兄を嫌ってるわけじゃない的な言動を最後に入れてる感じだけど、口が悪すぎて逆に反抗期のリアリティを損ねてるというか。 実際…
前々から思ってたけどキャラ付けにしてもやりすぎで流石に妹が不快
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ