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ネトゲの親友に性癖をぶちまけてたら、オフ会に来たのがクラスの美少女︎︎だった  作者: こうと


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第17話 秘密の相談会

学校から電車で二駅。


 家から微妙に離れたこの駅前のファミレスは、夕方になると部活帰りの他校の生徒や、買い物帰りの主婦たちでそれなりに賑わっている。

 窓際のボックス席。俺はメロンソーダの氷をストローでつつきながら、今日何度目か分からないため息を吐いた。


(……俺は、何をやっているんだ)


 スマホの画面には、数時間前に東雲しののめさん――ハルに送ったメッセージが残っている。

『双葉(妹)が限定ノートが欲しいってうるさくてさ。今から隣町のモールまで連行されるわ』

 ハルからは『うわー、相変わらずパシリにされてるね(笑)頑張れお兄ちゃん!』と、俺を応援する(半分馬鹿にした)返信が来ていた。


 嘘だ。全部、嘘だ。


 妹の双葉は今頃家で一人、スマホでもいじっているはずだ。

 俺が今、隣町にいる理由はただ一つ。


「カズッチくーん! お待たせっ、遅くなっちゃってごめんねー!」


 自動ドアが勢いよく開き、場違いなほどの「華」を纏った美少女が駆け寄ってきた。

 一ノいちのせ咲希さきさん。

 東雲さんと並んで学園の頂点に君臨する、爆弾娘だ。

 彼女は制服のカーディガンを脱いで腕にかけ、少しだけ襟元を緩めた、放課後仕様の装いで俺の対面にストンと座った。


「……一ノ瀬さん。声がデカい。それに、その『カズッチ』って呼び方、やめてくれないか。目立つだろ」


「えー、いいじゃん! カズッチくんはカズッチくんだもん。それに、今日は咲希の『スペシャル相談役』の任命式なんだから、これくらい賑やかじゃないとね!」


 彼女はメニューを広げると、迷いなく「期間限定・完熟イチゴパフェ」を指差した。

 店員を呼ぶ手際の良さも、注文時の満面の笑顔も、非の打ち所がない。さすがは学園の天使、社交性がカンストしている。


「……で。わざわざ場所を変えてまで話したい『相談』ってなんだよ」


「んー、焦らない焦らない。まずは糖分を補給してからだよ。……それよりさ、カズッチくん」


 一ノ瀬さんはテーブルに両肘をつき、身を乗り出してきた。

 パフェが届く前、彼女の瞳がスッと細められる。

 天真爛漫な笑顔の裏側に、鋭い観察眼が光る。俺の脊髄が、本能的に「敵だ」と警鐘を鳴らした。


「ぶっちゃけさ。……りんりんと、何か隠してるでしょ? 絶対、なにかある!」


「――っ! ……な、何がだよ。何もないって言ってるだろ。俺みたいなのが東雲さんとどうこうなるなんて、ゲームのバグよりありえないからな」


 俺は必死にメロンソーダをすすり、無表情を貫く。

 だが、一ノ瀬さんは逃がしてくれない。彼女は自分のスマホを取り出し、俺の目の前に突きつけた。


「嘘だぁ。凛りんね、最近すっごく上機嫌なんだよ。部活の休憩中も、スマホ見てはフフッって笑ったりして。……しかも、あのドラゴンさんのシール!」


「……シールが、なんだよ」


「凛りん、そういう『男の子っぽいデザイン』のシールなんて、自分から貼るタイプじゃないもん。それなのに、カズッチくんとお揃いなんでしょ? 偶然にしては出来すぎだよー。……ねえ、二人の間に『秘密』があるんでしょ?」


 一ノ瀬さんの言葉は、まさに核心を突いていた。

 俺たちが「三年来のネトゲの相棒」であり、この間の土曜日には俺の部屋で二人きりで過ごしたなんてことがバレれば、俺の学園生活は五秒で終了する。


「……。……あれは、本当にただの偶然だよ。たまたま東雲さんがそのシールを持ってるのが見えてさ、あ、俺もこれ好きなんだよねー、ってちょっと話はした。……大体、俺みたいなモブが、あの東雲さんと接点あるわけないだろ。……な、海斗に聞いてもそう言うぞ」


 俺は「モブ」という自虐の壁を築き、親友の名前まで出して必死に防御を固めた。


「……ふーん。……。……。……むむぅ……」


 一ノ瀬さんは頬を膨らませ、不満げに俺を凝視した。

 

「……。……カズッチくん、嘘つくのあんまり上手くないね」


「……。……うるさい」


「凛りん、カズッチくんのこと見てる時だけ、なんかこう……『相棒』を見るような、変に安心した顔するんだよ? 咲希、凛りんのこと大好きだから、そういう変化には敏感なんだからね!」


 そう言って彼女は、届いたばかりのパフェを一口食べ、しばらく沈黙した。

 嵐の前の静けさだ。俺は次の攻撃に備えて、頭の中で「完璧な言い訳」を構築する。


 だが、一ノ瀬さんの次の言葉は、予想外のものだった。


「……。……。……ま、いっか! 今は信じてあげる!」


「……え?」


「だって、凛りんが幸せそうなのは本当だもん。それがカズッチくんのおかげなら、咲希は応援しちゃうかも! ……。……。……あ、でも、やっぱり二人だけの秘密って不公平だよねぇ」


 彼女はパフェのクリームをペロリと舐め、いたずらっぽく笑った。


「カズッチくん。前の『この相談は秘密だよ』って話。……やっぱり、凛りんに隠さなくてもいいかなって思えてきた!」


「待て待て待て!! それは待て!!」


 俺は思わず立ち上がりそうになった。

 一ノ瀬咲希。彼女は「みんな友達、みんなハッピー!」という無邪気な価値観の持ち主だ。俺と彼女が密会していることを東雲さんに報告されたら、俺の「嘘」が全部屋上まで弾け飛ぶ。

……彼女の制服の胸のボタンのように。


「……頼む……!今はまだ、二人だけの秘密にしておいてくれ。頼む!」


 俺が必死に頭を下げると、一ノ瀬さんは「あはは!」と今日一番の楽しそうな声を上げた。


「にひひ! カズッチくん、必死すぎーっ! なんでそんなに必死なのー?もしかして、凛りんと付き合ってたりするの?」


「……え!? な、何言って……っ」


 俺が驚愕して固まると、一ノ瀬さんはクスクスと肩を揺らして笑った。

いや、決して付き合っては無いのだが。


「あはは! 冗談だよ、冗談! あー面白い、カズッチくんってば反応が最高!2人だけの秘密だよ?」


「…………冗談、か。……勘弁してくれよ」


 完全に俺のことをからかっている。

俺はガクッと肩を落とし、大きく安堵の息を吐き出した。心臓が止まるかと思った。

 

「にひひ。分かったよ、じゃあ今は、二人だけの秘密ね。……その代わり、咲希の『相談』、ちゃんと最後まで乗ってよね?」


 一ノ瀬さんは、もったスプーンを俺に向け、挑発的にウィンクしてみせた。

 

「今だけは凛りんに内緒の、秘密の相談役。……にひひ、なんかドキドキしちゃう!」


「……。……一ノ瀬さん、本当にズレてるな……」


 俺は深く、深いため息をついた。

 東雲さん(ハル)を守るために、別の女王と「秘密」を作ってしまった。

 

 一ノ瀬さんの好奇心の火は消えていない。

 それどころか、彼女は俺と東雲さんの境界線を、無邪気に壊そうとしている。

 

 俺の「親友以上恋人未満」な毎日は、どうやら、とんでもない嵐の予感に包まれ始めていた。

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