第16話 寝かさないからね
木曜日の深夜、俺の部屋。
ディスプレイの青白い光に照らされながら、俺は『エターナル・レジェンド』のレベル上げを終え、ふと手元のスマホを手に取った。
すると、画面には心臓に悪い通知が一件。
【咲希:カズッチくん! 来週の月曜日、放課後あけておいてね! 隣町の駅前のファミレスで待ち合わせ! 相談会、楽しみにしてるからね!(๑>◡<๑)】
「…………」
俺はそっと、スマホを裏返した。
見なかったことにしたい。だが、通知ランプの点滅は非情にも「現実」を突きつけてくる。
一ノ瀬咲希。学園のトップ2にして、東雲凛の親友。
そして現在、俺を「えっちな目線」という冤罪……もとい、半分事実なスキャンダルで脅迫し、専属の恋愛相談役に任命した爆弾娘だ。
(よりによって月曜日かよ……)
月曜日は、我が校の部活動が一斉休養日になる日だ。
つまり、女子バスケ部の東雲凛も、男子バスケ部の海斗も、放課後は自由の身。そしてそれは、俺とハル(凛)が早めにログインしてガッツリ攻略を進める「定例会」の日でもあった。
もし月曜日にログインしなければ、間違いなくハルから『何してたの?』と詰め寄られる。
かといって、一ノ瀬さんの誘いを断れば、『カズッチくんに酷いことされたー!』と東雲さんに泣きつかれる未来が見える。
「……詰んでる。完全に詰んでるぞ、これ」
俺は頭を抱え、翌日の金曜日の夜――つまり、土日を挟む前の最後のログイン時間を迎えた。
『――カズ、今日は一段と動きが硬いね。また寝不足?』
ヘッドセットから響くハルの声。ボイチェンなしの彼女の声は、相変わらず俺の鼓動を狂わせる。だが、今日の俺には別の意味で余裕がなかった。
「……まあな。ちょっと考え事してて」
『ふーん、考え事ねぇ。……あ、そういえば月曜日だけど。部活休みだし、16時にはログインできるよね? 新レイドの予習、ガッツリやりたいんだけど』
来た。回避不能のデッドボールだ。
俺はマイクのスイッチを切り、一度深呼吸。……よし、やるしかない。
「……悪い、ハル。月曜日、ちょっとログイン遅れるわ」
『えっ? 何で? カズ、月曜日はいつも暇だって言ってたじゃん』
声が少しだけ低くなる。東雲さんの「ハルモード」の追求は、学校の「東雲さん」よりずっと容赦がない。
俺は、土曜日の家庭訪問で得た「カード」を切ることにした。
「……双葉だよ。あいつ、最近俺に対して当たりが強いだろ? だから、機嫌取りに隣町のショッピングモールまで買い物に付き合わされることになったんだわ」
妹をダシにする。最低の兄だが、これしか思いつかなかった。
東雲さんは前の土曜日に双葉と会っている。双葉の「お兄ちゃんへの冷たさ」を目の当たりにしている彼女なら、この言い訳には説得力があるはずだ。
『……双葉ちゃんと、買い物?』
「ああ。あいつ、欲しがってた限定の文房具があるらしくてさ。俺を荷物持ちに使う気満々なんだよ。……悪いけど、19時くらいまで待っててくれないか?」
ボイスチャットから、コトッ、と微かな音が聞こえた。
東雲さんが沈黙する。
……マズいか。嘘がバレたか?
彼女には俺の「黒歴史性癖ポエム」という核兵器があるが、俺だって彼女の「中二病暗黒ポエム」を握っている。お互いにボタンを押し合えば、共倒れ。だからこそ、彼女は俺を信じるはず――。
『…………へぇ。一真が双葉ちゃんにそんなに尽くすなんて、珍しいね』
「……。……まあ、家庭内平和のためだよ。お前だって、双葉が俺にどんな目向けてたか見たろ?」
『あはは、確かにね。……分かったよ。じゃあ月曜日は19時半から。……でも、その分、日曜日の夜は寝かさないからね。たっぷり攻略に付き合ってもらうから』
「……。……了解だ」
「寝かさない」なんて、相棒としてのゲーム的な意味だと分かっていても、今の彼女の声で言われると、心臓に悪い。
なんとか、第一関門は突破した。
だが、俺にはまだ、もう一つの大きな問題が残っている。
隣町のファミレスで、一ノ瀬咲希と二人きりで会うという事実。
もし、もし万が一、そこで東雲凛に見つかりでもしたら。
あるいは、誰か他のクラスメイトに見られでもしたら。
(……いや、隣町なら大丈夫だ。あそこはうちの生徒の通学路からも外れてるし、東雲さんも家は逆方向だ)
自分に言い聞かせ、俺は眠れぬ週末を過ごした。
――そして、運命の月曜日。
放課後のチャイムが鳴ると同時に、俺は海斗の誘いを「妹のパシリだ」と叫んで振り切り、猛スピードで駅へと向かった。
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