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商業ギルドは閑散としていた。普段ならば、街の外から来た商人達と値段の交渉をし、商品を運ぶ荷運び人が大勢行き交う商業ギルドなのに、だ。
最も、全ての取引が商業ギルドで行われるわけではない。
農作物を売る露天商は、懇意にしている村から直接仕入れるのが一般的で、街と街を結ぶ商人の中にも、革加工ギルドと直接取引をしている者もいる。だが、大半は商業ギルドを通して商売をする。
複数の種類、例えば、加工肉と革と魔物素材のナイフ。全て魔物由来の素材であっても、加工するギルドは別々にある。それぞれのギルドに行って交渉するのでは、手間が掛かるし適正な価格で取引出来るとは限らない。
街と街を結ぶ商人は、当然ながら、この街にずっと居るわけではないのだ。
何かの理由があって、品薄となったり、在庫が余っていたりという情報を、街に着いてから取引までの一日二日で手に入れるのは難しい。
その点、商業ギルドであれば、ずっと街で情報を集め、適正な価格で各ギルドから買い取ることが出来る。季節毎に商品の需要は違うし、職人毎に製品の出来も違う。そういう情報を集めて、ギルドの利益を乗せて商売をする。
商人達はそれぞれのギルドを回ることなく、商業ギルドだけで取引を終わらせることが出来る。
だから、商業ギルドにはいつも品物が溢れているし、交渉する商人達の言葉が満ちているのが商業ギルドというものだ。
商業ギルドは閑散としていた。
始まりは、この街で呪いに倒れた者が出始めた頃からか。
今までだって、誰一人倒れたことがない、というほど平和ではなかったが、続け様に何人も医者に運び出されるとなれば話は別だ。
街に来る商人は、嵐が過ぎるのを待つように、別の街で商売をするようになる。
それでも、魔物素材が安く手に入るのは、ダンジョンがあるこの街だ。
街に訪れる商人の数が減ったとは言っても、魔物素材を中心に商売している者であれば、この街に来るより他はない。その時はまだ、少ないながらも商人達が訪れていた。
その状況が更に悪化したのは、ダンジョンの封鎖が行われたことだった。
何を間違ったのか、誰が勘違いをしたのか。ダンジョンが兵士達によって封鎖され、冒険者達がダンジョンに入れなくなった。それどころか、ダンジョンで狩りをしていた者達ですら街に帰れなくなった。
兵士達への命令は何かの間違いだったらしく、商業ギルドを始めとしたいくつかのギルドの連盟で嘆願書を出した所、その日のうちに解除された。
しかし、封鎖を見た他の街の商人達への心証は最悪だった。
呪われる危険を冒してこの街に商売に来ている。そういう心境だった商人達にとって、取引する魔物素材が手に入らないという悪夢を見せたのだ。
そうなれば、この街に用はない。
寧ろ、一刻も早く街を去り、別の商売の準備をしなければいけないだろう。
そうして商業ギルドは閑散としているのだ。




