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 領主の館は本来、喧騒とは無縁の場所だ。

 街の中としては破格の敷地面積を持ち、その周囲は街を囲む壁とはまた別の壁に囲まれている。敷地内には草木が植えられており、専属の庭師が管理をしている。

 敷地の一角には兵士たちの宿舎もあり、敷地に出入りする人数は少なくない。しかし、それも宿舎のある一角だけだ。

 領主が執務を行う本館からは、中庭を挟んで僅かに視線が通るという程度には離れている。

 本館に出入りするのは文官が中心で、作業の大半は書類を相手にした事務作業となる。

 そのため、本館では人の声よりもペンを走らせる音のほうが多く聞こえる。

 しかし、その日は普段とは少し違った。


「誰がそのような指示を出した!」


 領主の執務室から怒号が聞こえる。

 珍しく声を荒げたのは、この部屋の主である領主本人だ。

 複数のギルドから、ダンジョン封鎖の解除を求める嘆願が寄せられていた。それを報告に来た文官は、この館で書類の運搬を主として行っている者で、本人がダンジョン閉鎖の話自体を知ったのもつい先ほどだ。文官というよりも伝令というほうが近い。書類を運ぶことが仕事であって、書類の内容を知ることは多いものの、それを作ったり実施するような立場ではない。

 だから、怒声を浴びても、回答を持っていない。


「ええい、ダンジョンの閉鎖を解くこと、その指示を出したものを突き止めろ! 行け!」


 そして文官は走り出す。

 領主の館は俄かに騒がしくなり、一人の文官が中庭を横切って兵舎に駆け込むと、兵舎にもその喧騒が伝搬する。

 領主の館は本来、喧騒とは無縁の場所だ。だが、その日は喧騒に包まれていた。


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