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 死後硬直という言葉がある。

 日常生活で使うことなどまずない。それなのに、言葉の知名度は決して低くはない。

 主に目にするのは推理小説。主に耳にするのは推理ドラマ。

 ミステリーとも呼ばれるジャンルでは、少なくない頻度で現れるそれは死体の状態を表す用語の一つである。


 そんなことばかり思い浮かぶのは逃避だろうか。

 でもせっかく狩れた肉を捨ててしまうなんて選択はない。だから懸命に解体する。

 一人で解体するのは疲れる。

 おじさんの所に居た時は、ナイフこそなくても何人かが獲物を支えたり、ひっくり返すのを手伝ってくれたりしていた。ナイフで切る係はナイフを動かすのに集中出来たけど、今は全部を一人でやらないといけない。

 死後硬直。

 それは人間だけの話ではない。家畜などの食肉の場合には「肉を熟成させる」という言い方をする。でも現象は一緒だ。

 死んでからしばらく経つと死後硬直が始まる。筋肉の硬化現象。そうなると当然ながら、肉は固くなってしまって、切り分けやすいようにちょっと足を向こうに向ける、というのすら難しくなる。

 だから解体は殺して直ぐにやらないといけない。一人なら特に。

 それがウリボアから逃げまわったせいで息が切れていても。


 ウリボアの狩りには罠が役にたった。

 寝泊りしている棚状の場所の近くまで、ウリボアの突進を躱しながら逃げ込んで罠にかけた。草の端を結んで作った転ばせる罠だ。

 罠の場所まで逃げ込んだ後も、ウリボアが罠にかかるまでひたすら突進を躱し続けて、なんとか罠にはめた。結構な勢いで転んで行ったのを見て、急いでこん棒で殴った。息切れで殴るにも力が入らなかったのを何度も何度も。自分の呼吸も変な音がして息を吸えているのか分からなくなった頃にやっとウリボアを倒せた。


 それだけ苦労して狩った獲物だ。ちゃんと解体しないと。

 内臓を傷付けないようにお腹を開いて、内臓を取り出す。おじさん達は内臓は全部捨てていたし、料理の仕方も、食べて平気なのかも分からないからこれは全部捨てる。

 がんばって皮を剥いで、肉をいくつかに分ける。

 皮は内側の油を削いだら乾かしておこう。いつか街に買い物に行ったときお金になる。

 肉は分けただけで棚の上に持っていく。高い棚に上るのは肉を持ったままじゃ無理だから、先に、棚の上に肉を全部乗せてから登る。

 すぐに食べる分と、残りは、塩で乾燥させたほうがいいだろうか。自分一人で食べ終わるまで腐らないでくれるだろうか。塩はまだまだ残ってるけど、肉屋ギルドの人達がやっていた真似でちゃんと出来るのかはよく分からない。


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