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カツカツと、ダンジョンの中に足音が響く。
静かにしろと言いたいところだが、慣れない奴らに言ってもそう簡単に出来るものでもない。話し声が聞こえないだけでも良しとしようか。
今日も冒険者になり立ての奴らを連れての魔物狩りだ。行きに一日、帰りに一日。獲物を探して迂回しながら行っても、夜には水場の近くに辿り着く。そういうルートだ。
冒険者になり立ての奴らは金がない。ついでに狩りの仕方も知らない。武器を用意してやる、そして狩りの仕方を教えてやると言えば大抵の奴は引き込める。渡す武器も、ギルドの知り合いから捨てるだけの骨と革の切れ端をもらってくるだけだ。信用のない新人には手に入れることは出来ないが、何年も取引をしている伝手があれば簡単なことだ。
何度も狩りに連れ出すうちに、慣れて来た奴から仲間を誘って離れていくが、その頃には新しい見習い冒険者が街に来る。
今日初めて狩りに連れ出す奴は、他の奴らとはちょっと時期がずれていて、新人は一人だけ。だが、春祭りの準備で行った肉屋ギルドの遠征で見た顔だ、まったくの初めてじゃなければどうにでもなるだろう。
それに良いこともある。その新人は肉屋ギルドの遠征では料理係で、個人でナイフを持っている。なり立ての冒険者に渡す骨のこん棒は、魔物を殴り殺すには十分だが、解体が出来ない。俺のナイフ一本でやるのをいつも面倒に思ってた所だから丁度いい。
「狩りはウリボア狙いだが、他の魔物にも注意しろよ。蝙蝠に目を抉られたり、蛇に足を食われたりしないようにな」
そんな間抜けはいないと笑う見習いは多いが、毎年何人かは蛇に足を噛まれる。運が悪いと毒で足を失う。足がなけりゃダンジョンには潜れなくなるし、もっと運が悪ければ街まで帰りつけずにそこでお終いだ。分かってるのかね。分かってねえんだろうな。こうやって教えてやったところで、見習いにに届いた試しもない。分かるのはもっと年を取って、知り合いが何人も帰って来なくなってからだ。




