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「まだ材料が届いてないもので」


 値段を渋る宿の主人にそう言う。

 材料が入ってきてないのは事実だ。春になり畑には種が撒かれ始めているとは言え、収穫はもう少し先だろう。それまでは去年の秋に入った材料でやり繰りすることになり、夏、秋と比べれば少し高い。春祭りで稼いだだろうに、もうちょっと気前良く払ってくれないものか。

 内心はおくびにも出さず、にこやかに話しをする中でふと気づく。裏口からは見えにくいが食堂に奥さんがいるようだ、食堂の掃除だろう、ここの奥さんは金には厳しいからな。


「勿論、材料が入ってくるようになったらちゃんとお安くしますので」


 食堂まで聞こえるように心持ち大きな声で話す。

 油は無事に売れ、言われた通りの量を宿の油壺に入れる。植物油はどちらかというと高い品だ、値段で言うなら魔物の皮と肉の間から取った油のほうが数段安い、が、この宿は値段を気にする割りには魔物油は使わない、取引はいつも植物油だ。臭いを嫌う人も、出るススを嫌う人もいる魔物油だが、さて、嫌っているのは主人か奥さんか。まあ他人の金の使い道に口を出すほど野暮じゃない、大人しく油を売ったら帰りましょうか。

 裏口を離れたところで、宿の下働きをしている少年とすれ違う。軽く挨拶。もう言葉は問題ないはずだが、どうにも無口なのは相変わらずだ。おっと、とっとと次のお客に売りにいかないと、いつまでも重いものを背負ってると肩が凝ってしまうな。


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