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「黒髪の坊主じゃねーか。お前まだこの街に居たのか」
そう声を掛けてきたのは金属製の重そうな鎧を身に纏った男だった。金属鎧もそうだか、体本体が厚く出来ているようで筋肉男と呼びたくなる。あの大きな手なら、自分の顔を掴んでそのまま握りつぶせそうだ。
これだけ暑苦しかったら覚えていそうなものだけど、生憎、覚えがない。宿の客だろうか。それとも絡まれてるんだろうか。逃げたほうがいいのだろうか。でも食べてる途中のこれはどうしよう。雑穀入りスープという感じのこれは、麦だけじゃなくいろいろ入っていて、正直、穀物入りとしか分からないけど、値段の割に腹持ちがいい。味と言えるほどの味はついていないので、好き嫌いを考える必要がないのもいい。
「ほら、坊やが困ってるわよ」
「お前この坊主が起きてる時に会ったことないだろうが」
現実逃避しているうちに、更に二人が追加された。
一人は革のローブを着た女性。もう一人は革の鎧を着た男性。こっちの二人は街中でもよく見るタイプの装備をしている。全身金属鎧の大男よりは普通の人っぽい。
その後は、三人が同じテーブルで食事を初めてしまい、自分もまだ食べ終わっていなかったので、なし崩しで話をした。聞いてみると、自分がダンジョンで倒れているのを助けて、街まで連れてきてくれたのがこの三人らしい。「部屋に閉じ込められていたぜ、魔法のトラップにでもかかったのか?」と言われたがさっぱりだ。思わず魔法ってあるのかとと聞いてしまった。少ないが、ダンジョンの中には魔法のトラップがあるということだった。
魔法、あるのか。ダンジョンの中から助け出されたというのも始めて聞いた、と思う。宿で目が覚めてから、言葉を覚えるまで大分かかったから、その間に言われてたのかも知れないけど。
まだあの宿で寝泊りしていることを話したついでに、どこに住んでいるのかを聞いてみたら、ダンジョンに入る人たちが住む長屋のような建物があるらしい。勿論、宿のように食事が出るわけでもなく、ただ部屋があるというだけみたいだ。ウィークリーマンションみたいなものだろうか。ダンジョンに入る時に解約して、ダンジョンから出てきたらまた借りるのだと言う。
話しをしているうちに全員の食事が終わって解散になった。三人はこれからダンジョンに潜るのだそうだ。
挨拶をして三人と別れる。あ、助けてくれたお礼って何か渡したほうがいいんだろうか。




