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その日は朝から慌ただしかった。
春祭りの当日だ。
もう少し、春のxxx祭りとか名称がつくのかと思って聞いてみたら、ただの春祭りだそうだ。街で行う祭りは春の春祭り以外にはないらしく、名前で区別する必要もないとか。ただ、近くの農村では秋に収穫祭が行われるらしく、春と秋だけ区別がつけばいいようだ。
祭りに合わせて、いつもの荷物を背負った商人以外にも、いかにも農村から来ましたというような人が宿に泊まっている。なんというか商人みたいに手慣れていない感じで、宿泊費の支払いも、硬貨を一枚一枚確認しながら渡していた。支払いをそんなに慎重にやるなら、残ったお金の扱いも慎重にしたほうがいいと思うんだけど、払った後は財布を手に持ったまま仕舞わずに歩いている。仕舞うことが考えれないほど緊張でもしてるんだろうか。それとも単に持ちなれてないんだろうか。
いつも宿に泊まってる人たちは、この日は朝食を待たずに宿を出る。もちろん、朝食なしを条件に、値引き交渉をしてから泊まっている。今日だけは広場で無料の振舞いが出るから、そっちで食事を食べるのだそうだ。
一方、農村から来た人たちは、通常料金で泊まって朝食を食べてから行く。食事の準備が出来るのを待ち構えているし、食べてすぐ、大急ぎで出かけるから広場での振舞いを知ってはいるようなんだけど、食事抜きで泊まるということはしないようだ。交渉が出来るということを知らないのかもしれない。
いっそ全員が朝食なしになってくれれば、こっちも朝食を準備せずに済むんだけど。
一応、食事の後片付けが終わってから、広場に行ってみた。想像通りというか、もう振舞いは全部終わってしまっていた。農村の人たちは少しでも食べれたんだろうか。
暖かな風が雑多な匂いを運ぶ。
後片付けが続く広場に背を向ける。
今日の食事はどうしようか。




