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 鍋一杯に水を入れ、火にかける。

 ダンジョンから戻ってきて、また宿で食事を作っている。

 明日は春祭りだとか言って、今日は大勢のお客さんが居るのが面倒臭い。

 ダンジョンから出て来たばかりなのに、また食事の用意だ。

 朝起きて食事の用意、ダンジョンの中を歩いて、また食事の用意。


「えー、やっと宿についたのに、また出るんですか~?」

「馬鹿野郎、持ってきた品物は今日のうちにギルドに売らないと、明日買い物をする金がないだろうが、馬鹿言ってないで行くぞ」


 さっき到着したばかりのお客さんがすぐ出ていく。

 自分と同じくらいの年に見える少年は、文句を言いながらも連れられて行く。

 自分も文句を言いたいが、ここでは皆そうなんだろうか。

 労働基準法、はないだろうし、住込みだと丁稚奉公だろうか、それとも親族の手伝いか、ああ、そもそも契約がないと労働基準法も関係ないか。労働契約とかこの街にあるんだろうか、冬の間に兵士達と一緒にダンジョンに入ったのだって、報酬をもらった時こそサインをしたけど、仕事を始める前には何も書類手続きなんてなかったように思う。


 煮立ってきた鍋に野菜を入れる。

 根菜を先に、固いものから順に、葉野菜は最後でいい。肉はいつも通り欠片くらいの大きさに切って入れる。小さいからこれも葉野菜と同じく最後でいい。

 もう一度煮立ってきた所で火が弱くなるように、薪は追加しない。浮いて来た灰汁を少しだけ取る。ダンジョンで一緒になった人に教えてもらった、苦みが浮いてくるから捨てるといいと、でも取り過ぎると量が減って騒ぐ奴も出るから最初に浮いてきた少しだけだ、と。

 正しいのかはよく分からない。でも浮いて来たものを舐めてみたら苦かったから多分正しい。苦虫をかみ潰したよう、という表現を見たことがあるけれど、きっと灰汁を取らなかったんだろう。

 塩だけは宿の主人のおじさんが入れる。入れる量には拘りがあるようだ。少なすぎると思うけど、塩って高いんだろうか、高いんだろうな。塩を運んでるおじさんは大きな荷物を背負っていたけど、あの人は何日で往復してるんだったっけ。


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