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「告げる。春祭りは2日後に執り行う」
後ろに兵士を従えた壮年の男がよく響く声で告げる。
「告げる。領主様からの振舞いはこの広場で行う」
「告げる。この広場での商いは領主様のご許可を得た場合のみ認められる」
一方的に告げた後は、兵を従えた壮年の男は歩み去る。
日に一度、告知官はこの広場と合わせて、都市の入口、ダンジョン前の広場など数カ所で告知を行う。
静まり返っていた広場は、告知官が歩み去るのにあわせて、元の喧騒を取り戻す。
「振舞い楽しみだな。昼時に来てみようか」
「なに言ってんだ、朝から来ないとなくなっちまうぞ」
「マジかよ」
「町中のやつらが食べにくるからな。朝は振舞いを食べて、昼は露天でってのがこの街の流儀だ。露天だってこの広場に出るのは普段ない露天ばかりだからな」
「次は木工ギルドだ。祭りに使う材料だからな、急げよ」
「へい」
「肉屋ギルドのやつらは帰ってきたのか」
「あー、まだ見てないっすけど、今日戻るって話っす」
「じゃあ帰りにでも顔出してみるか、直す道具の1つや2つはあんだろ」
「露天か、俺も出して見ようか。今からダンジョンに入れば1、2頭くらい狩れんだろ」
「いやお前何、馬鹿なこと言ってんだ」
「ギルドに下ろすより、露天で直接売ったほうが高く売れるだろ」
「だから馬鹿言うなって。商業ギルドに入ってないヤツが露天なんか出せるかよ」
「いやだって、さっきのおっさんが領主様の許可があればって言ってたぜ」
「お前なあ。領主様のご許可ってどうやってもらうつもりだよ。商業ギルドに入ってないやつが露天なんて出せないぞ」
春祭りには、近隣の村からも人が集まる。
多くは冬の間に作った糸や布、植物の茎を編んだ篭を持ち込み、代わりに冬の間に乏しくなった塩や食料の買いこみ、そして冬の間に壊れた道具の修理や買い替えを行う。
近くは歩いて数時間の村から、遠くは数日かかる村まで。持ち込まれた品々は商業ギルドが買い取り、春祭りで売りに出される。
糸を売りにきた村人は篭を買い。
布を売りにきた村人は塩を買い。
篭を売りにきた村人は新しい刃物を買い。
呑んで騒ぐことが主体ではなく、村同士の物々交換にも似た大型マーケット。それが春祭りである。




