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ガッコン。
ガコガコと音を立てながら引かれていた荷車が一際大きな音を立てて止まる。
「おーい、ちょっと止まってくれ!荷車がダメだ!」
その声で隊列が止まる。
声のした荷車に駆け寄る者。隊列のまま周囲の見張りをする者。革袋を取り出して水を飲む者。
声が上がったのは少し前を進んでいた荷車だったので、そちらを見るともなしに見ながら息を整える。
行きも結構スペースが速いと思ったが、帰りも辛い。疲れが溜まってるんだろうか。
「車軸が折れてやがる。おーい、代わりの棒をくれ」
荷車に駆け寄っていた中の一人が、荷車の下を覗き込んでそう言う。
「おら、ぼさっとすんな。先に荷物を下ろすぞ」
続けて上げられる声に、手伝ったほうがいいのかとは考えるが、足がだるい。
それでも荷物を下ろす人が増えてくるのを見ると、やっぱり手伝ったほうがいいのだろうかと思える。
「おい、飯炊きの坊主。この棒を持って行ってくれ」
すぐ後ろにある別の荷車から声が掛かる。
目の前に突き出されたのは、2メートルくらいある木の棒。
確か、この荷車には、天幕に使った布とか骨組みが載っていたはず。
言われるままに受け取るが、重い。
木ってこんなに重いものだっけ。
木の棒の中央を持ち直し、バランスをとってから、前の荷車に移動する。
前の荷車の荷物はあっさりと下ろし終わり、車輪を外している。
「代わりの車軸をくれ」
声を上げた人の所まで木の棒を持っていく。
天幕の中で肉に風を送っていた人だった。
木の棒に車輪を通して、木の楔を打ち込んだり、縄で括ったり。最後に車輪を手で回して作業は終わりらしい。
渡された、折れたほうの車軸を持って元の位置に戻る。
後ろの荷車に折れた車軸を入れて、荷崩れしないように積み荷を縛り直しているのを黙って見ている。
「よし、荷物を乗せてくれ」
手伝ったほうがいいのだろうか。




