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「まあ、こんなもんだろ」
一息ついて、並べた肉を見る。
全ての肉は同じように塩をすり込まれ、木の皿の上に並べられている。
長持ちさせる必要のある旅の食料なら、もっと塩を多くしたり、酒に付け込んだりもするが、今は街に帰ってすぐにある祭り用だ。
数日の持たせるだけでいいし、保存という意味なら、日差しの少ないこのダンジョンの中は肉を保存するのに悪くない。何も処理しなくても祭りまでは保つだろう。
それでもここで処理しているのは、祭りには加工した肉も必要だからだ。
塩漬けにして数日。塩抜きに一晩。そのあとは昼の鐘まで煙で燻せばハムやベーコンになる。
同じ獲物からでも、取った部位毎に脂身の量も肉の固さも違う。
バラ肉なら脂身が多いからベーコンが最適だし、背中はハムにしたほうがいい。足や肩は加工に回さずに焼いて食べたり、スープに入れても味が出て旨い。場所によってはスジ切りをしないと、固くなって食べるのに困るなんてこともあるけどな。
何も知らない奴らは生肉以外は全部干し肉だと思っているようだが、使う塩の量も寝かせる時間も、塩で漬けるか酒で漬けるか、燻すかどうかも全部違う。物によっては燻すときに使う木材にまで気を使わなきゃならない。
肉質を考え、天気を感じながら、違う季節でも同じものが作れるようになって、やっと一人前だ。
今回は祭りの日に合わせてここで塩をつけて水を出してから、切り刻んだハーブと一緒に改めて塩水につける。この状態にして街まで運ぶ。
水が出切るまでの間は湿気が籠らないように風があったほうがいいが、ダンジョンの中ではあまり風がない。天幕で囲っていることもあって、勝手に風が吹き込むわけでもなし、しばらくの間は荷運びの下男に板で扇いでもらう必要があるな。
荷運びの下男は、街の外から来て冒険者をやっていた男で、力だけはある。
肉屋ギルドに所属はしているものの、外のやつだから肉の仕込みや目利きなど分かるはずもなく、ずっと下男をやっている男だ。
なんでも、数人で組んで冒険者をやっていたが、仲間がダンジョンで死んだのを機に足を洗ったらしい。
今回のような臨時雇いもそうだが、大量の肉はかなりの重量になる。
だから肉屋ギルドが、荷運びの臨時雇いを雇うことは多く、それを続けていくうちにギルド員になったと聞いた。ただし、荷運びは荷運びだ。親もギルド員で、子供の頃から出入りでもしていなけりゃ徒弟として肉の仕込み方を学ぶことは出来ない。
もう一度あたりを見回し、並べ方に問題がないか確認すると、下男を呼びに天幕を出た。




