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料理係とは言っても、特別な技術があるわけではない。
宿でやってたような鍋一杯に適当に切った野菜や肉を入れて塩で味付けするだけ。
昔、学校の授業でやった調理実習のほうがよっぽど複雑なことをしていたと思うけど、言われた通りに作業していただけなので、手順なんて覚えていない。
道中の食事も大きくは変わらないが、具がほとんどなく、塩スープと言っていいほどだ。
道中の食事は固いパンと塩スープ。じゃあ拠点に腰を落ち着けてスープの具が増えました、とは言っても豪華になったとはとても思えない。
その頃には持ってきたパンを食べつくし、麦粥に代わっていたからだ。
朝は麦粥のみ、夜は野菜の入った麦粥。
そこに取れた獲物が多ければ肉が入ると言ったところ。
もし、日本でジャンクボードなんて名前もついていたハンバーガー、あれがあったらとんでもない高級品だろう。
少なくとも今の自分が食べれる値段で売ってるとは思えない。
まず、ハンバーガーに使うパンが高級品だ、あんなに柔らかいパンはこっちでは食べたことがない。しかも固いパンだっていつも食べれれるものでもない。パンがなければ麦粥を食べればいいじゃない。生地を作って釜で焼くなんて手間を掛けると高くつく。
肉については、ダンジョンからそれなりに産出されてる感じだが、ひき肉にして他のものと混ぜて形を整えて、なんて手間は掛けない。そのまま焼くか、細かく切ったものをスープの中にドボン、だ。
前に兵士達と入った時にはダンジョンの掃除が目的だったから、荷車の上には日に日にガラクタが積み重なっていった。
今回の目的は肉の調達だから、荷車の上に積みあがるのは肉、皮、そして少しの牙。
牙が少ないのは大きいものにしか値が付かないからだそうだ。拠点の外れに作られた解体作業場には、内臓などと共に頭や手も破棄される、大きな牙だけは取り外されて荷車の上に並ぶが、残りは頭蓋骨についたまま、手についたままだ。欲しかったら勝手に剥いでいいらしいが、お金にならないんじゃな。
肉は取れた日毎に分けて積み上げられ、初日に取れたものから食事に使われる。
使う量を決めて渡してくるのは指揮をしているおじさんばかりで、肉屋ギルドの人たちらしい。
その人たちは獲物が届く度に肉と皮に解体している。
内臓は渡されないから、解体の後にいらない骨なんかを燃やしている中にあるんだろうと思う。内臓は食べないのか気になるけど、食べれないものなのか、手間だから捨ててるのかは分からない。少なくとも、料理に使うように渡されるのは肉だけだ。
獲物が届かずに手が空くと、干し肉作りをしている。
そのときは料理係にも声が掛かるので、一緒になって肉に串を刺し、塩をすり込む。串を刺すのは塩が染み込み易いようにだと言って、串を刺す間隔も結構細かく指示された。
塩をすり込んだ肉は木の皿に並べて、天幕の中に並べられる。
天幕を使って天井だけじゃなく四方も囲んでいるのは、蝙蝠対策だそうだ。
日に当てるわけでもなく、天幕で囲ってしまえば風も当たらないから、乾燥するのか疑問だったけど、天幕の中にはいつも人がいて、ずっと板を使って肉を扇いでいた。たしかあの人は荷車を引いていた人だと思う。
体の大きな人だし、力は強そうだ。あれだけ体格が良くなれば自分にも仕事があるんだろうか。




