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「ダンジョンって広いんだな。穴の中なんてもっと狭いと思ってた」


 俺の前を歩くまだ幼さの残る若者が言う。

 気持ちは分からなくもない、ここは穴というよりも森に近い。


 飛び出た岩が木のように視界を遮る。

 遠くに見える天井には隙間があるのかわずかに光が漏れていて、森の中で木に光を遮られているような錯覚を起こす。

 街に来たばかりの若者が物珍しさで周りを見ながら、道を見失うように。


「気を抜いてんじゃねえ。ここがダンジョンだって分かってんのか」


 だから年長者としてはそう言わざるを得ない。

 道を見失う前に、命を落とす前に、ここが危険なダンジョンだと言ってやらなければいけない。


「分かってるよ。そのくらい」


 年をとって得た知見など、若者に届いた試しもないが。


 天井から光が漏れているとは言っても、それは明かりを付けなくても歩けるという程度のものだ。

 前を歩く仲間達は黒い影にしか見えないし、岩の影は暗くて何かが潜んでいても分からない。

 そうでなくても大小様々な石の転がる床は、凹凸が激しく、歩ける場所など荷車がなんとか通れる程度の細い一本道でしかない。


 足元の影。


 違和感を感じて足を止め、槍に手を掛けて数秒。

 少し離れた場所に遠ざかる蛇の影を見る。


 息を吐いて槍を持ち直す。

 蛇に噛まれて歩けなくなるのも勘弁だが、足元ばかり見ているわけにもいかない。


「なんだよあのおっさん。いきなり止まるなよ」


 蛇に気づかない若者が小声で的外れな文句をつぶやく。


 蛇は自分より大きい相手にいきなり襲い掛かることは少ない。

 しかし、それは攻撃されないと無邪気に思えるほどに少なくはない。

 そうして足を噛まれ、歩けなくなって、ダンジョンから出て来れなかった者たちも少なくはない。


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