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「おおっ、春の分の募集が始まったか」

「やっとか。ここらで一発稼がないと」

「やっべ、武器修理中なんだよな。間に合うかな」


 その日のギルドは張り紙を前に十人を超える人だかりが出来ていた。

 張られている紙は魔獣の皮から作ったものであり、書いてある文字も読める人間が少ないため、担当の職員が日に何度も読み上げることで周知をしていく。


 ギルドとは言っても、ダンジョンに入る者たちのギルドではない。

 同業者組合と言い換えれば多少はイメージが沸くかもしれないが、ダンジョンに入る者たちが所属するギルドは存在しない。ただ田舎から出て来て生活のためにダンジョンの潜る者が大半のためだ。そしてダンジョンを管理しているのは領主であり、市民ですらない者たちが勝手に管理する組合を作るなど許されるはずもない。


 張り紙が張られたのは肉屋のギルド。

 この街を含め、大抵の街にあるギルドは同業者の利益調整の場であり、取り決めによって売る肉の値段を決め、それを同業者全員で守るという一種の談合組織だ。肉屋のギルドであれば、皮職人のギルドや、行商人のギルドとの交渉もそれに含まれる。仲間の利益を守るための組織と言えば聞こえはいいが、見方を変えれば既得利権を守るための組織でもある。

 肉屋のギルドでは、春の祭りに備えてダンジョンへの大規模調達の準備を始めていた。


 大規模調達は春と秋の2回。いずれも祭りの前に行われ、そこで調達した肉は祭りで盛大に消費される。

 特に春の祭りは秋とは違い収穫期になる農作物が少ないため、肉の需要が高い。冬を耐え、春を迎えられたことを祝い今年一年の活力をつけようという祝い。との名目で他のギルドと示しあって始めた、この街独自のお祭りだ。

 ここでは春になると、冬の間の手仕事の成果が近隣の村々から持ち込まれる。それに合わせて行商人も動き出す。人が集まるならば祭りにして盛大にお金を落としてもらおう。そんな思惑で始められたお祭りである。


 名目はどうあれ、祭りとして盛大に飲み食いしてもらうためには、先だって食べ物を用意しなければならない。

 そのために肉屋ギルドでは毎年、春先には、大規模な調達部隊を組織してダンジョンへ赴くことになっている。


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