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 鍋が売っていた。

 鉄で出来た鍋。


 宿で使ってるのは土鍋だったし、金属はこの街にないんじゃないかと思っていたけど、普通に露天で売ってた。


 考えてみればそうだ。

 これだけの街が出来ている時点で石器時代の訳がない。

 頭に思い浮かぶのは竪穴式住居。家に壁はなく穴の上に屋根だけを被せた住処で、洞窟の横穴とは違って平地に作ることが可能な点では進歩だったのだろうけど。

 この街の家はちゃんと壁があって、その上に屋根が乗っているし、一階建ての建物が見当たらないくらいに縦に長い。全部の家が三階建てくらいあるんじゃないだろうか。


 それにこの街は海から大分離れているらしい。

 宿の常連の中に塩を専門で運んでる人がいる。その人は大体二カ月くらいの間隔で来ているらしい、そんな話をしていた。そして来るといつも3日くらい滞在していく。

 だから、海までは片道で一月近くかかるんだろうと思う。

 文明の発祥は海の傍の平野、特に大河が海に流れ込む河口付近と本で読んだことがある。だからこの街はそれだけ海から離れているということは、海から遠くても生活出来るだけ文明が進んでいるということなんだろう。


 それに、宿で働いてて見る人たちは、当然ながら街の外から来た人たちばかりだ。

 そのほとんどは大きな荷物を担いだ人たちで、宿の中での会話から別の街との間を荷物を持って往復しているようだ。

 行商人と言っていいのか、それとも荷物を運ぶだけの運び屋か。

 小説で覚えているのは荷馬車を引いて村々を回る行商人だが、宿に来るのは自分で荷物を担いでる人ばかり。街の大通りには馬車が通ってるし、沢山の荷物を積んでるところを見たこともあるけれど、宿に来る人たちが馬車を使わない理由は分からない。

 馬車を買うお金がないのか、それとも街に来る途中に馬車が通れない道があるのか。


 そういえば市民権ってどうなんだろうか。

 日本にいたころは意識することもなかったけど、小説だと行商人は街で店を開くために、市民権を買うお金を稼ぐって設定だったように思う。市民権がないと定住することも出来ないし、お店を開くことも出来ない。この街ではどうなんだろう。もしかして屋台をやるにも市民権がないとダメだったりするんだろうか。


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