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やっと春になって荷物が届くようになってきた。
これで材料の残りを気にせずに皮なめしが出来るってもんだ。
冬の間も魔物の皮だけは他の季節と変わらずに入ってくるが、皮をなめすための石の灰も樹皮も運び込む商人が来なくなる。
ろくに馬車も走れない冬の道で誰が命がけで荷を運ぶのか、って話だ。
毛を残した防寒用の上着ならともかく、毛の処理には石の灰を使うし、皮が腐らないように樹皮と一緒に水に入れなきゃならん。もちろん皮に残った油をとったり槌で叩いて厚さを合わせたりと手間がかかる。手間はしょうがないが、石の灰も樹皮もなけりゃ手間をかけることすら出来ん。
どうしても冬にあまったら塩漬けにしておいて、春にはよその街に売り出すことになるが、冬の間中倉庫を占拠する上に大した値段じゃ売れもしねえ。
どうせ場所も食えば手間もかかるなら、うちできっちり処理して服屋でも防具屋にでも売ったほうがましだ。
まあ確かに、樹皮がなくても処理する方法があるとは聞いたことがあるさ。
だが話をしてくれた師匠も眉唾物だから手を出す必要はねえって話だったし、去年は何をとちくるったか樹皮を買い込まずにそれに手を出した馬鹿野郎は春になる前に死んじまった。それも家族を道ずれによ。
おう。やりきれねえ話よ。
やり方を変えるなとは言わねえがよ。
慣れねえことやるならそれだけ準備をして、注意をして、やばいと思ったら元のやり方に戻せるようにしねえとよ。
冬の間に使う樹皮を買い込まずに、俺には新しいやり方がある、なんて試したこともないやり方に飛びつきやがって。
あ?樹皮の代わりに何を使ったかって?
教えてやってもいいが、お前えはやるなよ。
わかってるって?ならいいがな。樹皮だって安くはねえんだ。変な色気だして死なれちゃ、教えた俺が馬鹿みたいじゃねえか。
ああ、わかったわかった教えてやるよ。
魔物の脳みそを使うんだよ。




