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ナイフは貸してくれなかった。
なんでも、ナイフは消耗品の扱いらしい。
今までは持ってなかったからしぶしぶ貸してはいたが、あるのなら自分のを使え、だそうだ。奥さん曰く。
野菜を切っても、野菜に赤い色が映らなかったのだけは安心した。
昔は研ぎ直しとか打ち直しをしてた、なんて本で読んだ覚えがあったけど、こっちのナイフにはないんだろうか。
そうか、骨だもんな。研ぐのは出来ても、打ち直しは出来ないか。火に入れたら燃えてなくなりそうだ。
鉄だったら欠けても熱してから別の鉄を馴染ませることで多少の補修は出来るはずだけど、熱したら燃えます、じゃあどうしようもない。
ナイフが鉄でないのは分かったけれど、鉄が使われているものはないんだろうか。
水を汲む桶は木だった。
水を貯める甕は土を焼いたものに見える。鍋もそうだ。
身の周りのものを思い浮かべても鉄が見当たらない。
蝋燭台は、あれは何だろう。
堅そうだけど、あれも土を焼いたものに見える。
服は布と皮だし。
街中で見かけた鎧っぽいのも皮が大半で、たまに見かける固そうな部品も黒とか赤だったような気がする。
木、土、骨。
この宿だってそうだ。壁は土で作ったレンガだし、上のほうは木を使っている。
ベットは藁の上に皮を掛けたものだと最近になって理解した。客室のベットが崩れてしまって、直すのを手伝わされたときに理解した。土台は藁を束ねたものだけで、木枠すらなかった。
木、土、骨。
ここは石器時代なんだろうか。
水を貯める甕には縄の模様がなかったから、縄文時代ではないような気がする。なら弥生時代だろうか。麦や野菜を料理に使っているから、どこか近くで栽培しているんだろう。野生ってことはないと思うんだ。




