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宿にある刃物は黒っぽい色をしてたから、金属なんだと思ってたけど違うみたいだ。
ナイフを売ってたお店では、この街で使ってる刃物は魔物材料ばかりだと言っていたので、確かめてみた。宿のおじさんによると、鉄なんて高いもの使えるか、だそうだ。
でも赤はないんじゃないかって思う。
まるで血を吸ったような赤。
獲物を生きたまま食いちぎってそのまま、そんな気持ちになる赤。
材料は魔物の牙だと言うから、血の色がこびりついたとしても否定しきれない。
いや、牙って血が染み込むような材質かは知らないけれど、染み込んでないといいな。
値段の違いに負けて、赤い刃物を買ってしまった。それでも、自分のものだというだけでなんとなく嬉しくなってくる。
別に刃物を眺めてニヤニヤしているわけじゃない。そんな危ない性格なわけがない。何も持たずに知らない場所に来たから、自分の持ち物が増えるのがうれしいだけだ。
刃物をしばらく眺めた後で、セットで買った鞘に戻す。この鞘に使っている皮も魔物の皮を使ったものらしい。
金属も、布も、魔物素材の方が安いというのはなんでなんだろう。
鞘にしまったままのナイフを手に、狭い自室で溜息をつく。
出来れば引き籠りたい。でも引き籠る場所も、引き籠って出来る娯楽もない。
宿の部屋は臭いし、暗い。
服とナイフで大分お金を使ってしまったし、お金を稼ぐ手段も早めに探さないといけないのは分かっている、
清潔で安全な寝床と、食事に困らないくらいの稼ぎ。
手段はないけど、まだ。それでもこの部屋に漂う臭いは清潔で安全だとは思えなかった。
ああ、よく考えたら、このナイフは料理にも使おうと思ってたんだ。
なんとなく気持ちが落ち込んでくる。
せっかく買ったけど、明日からも宿のナイフを借りようかな。




