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 屋台の夜は遅い。


 日が傾く頃、その日の仕事を終わらせるべく足早に歩く人を躱して水を汲む。

 同じ時間に水を汲むのは、夕食の支度を急ぐ女性達。


 夕闇が迫るまでには、竈に火を入れる。

 屋台の半分以上を占める、移動可能な竈は煉瓦に石に土と、熱によって屋台が痛まないように厚く作られている。そのせいで屋台を引くのは重労働だ。

 しかし下拵えを済ませた材料を載せた屋台は、鎖で地面に固定しており、もう何か月も移動してはいない。


 屋台というには語弊がある固定店舗。街の中心、ダンジョンへと続く道に設置された貸出し屋台。

 この料理人は、それを夕方から夜までの契約で借りているに過ぎないのだから。


 盗難防止のために地面に埋め込まれた鎖で固定された、鎖さえなければ移動することも可能な竈。

 それがこの屋台である。


 日が完全に沈む頃には、竈の火は十分な熱を放出し、乗せられた鍋の中では沸騰したお湯が音を立てる。

 切り分けた野菜を放り込み、頃合いを見て肉を、調味料を入れる。

 大振りな肉はダンジョンで取れるこの街では安い食材だが、それだけでは味気ない。後を引かない香辛料でピリリとした味わいを与える。そして肉から出る旨み。

 火加減の調整が終わったところで、今日最初の客が訪れる。


「一杯くれ!」

「あいよ」


 メニューもなにもない一品だけの売り物は、渡した傍から男の腹に消える。

 ダンジョンに続く道の途中。ここは夜、ダンジョンから戻る者たちの通りが激しい。

 荷物を担いだ者たちは、日の射さない場所から出て来て夕食を取る。


 夜一番の屋台通り。


 客はダンジョンの中で日差しを見ることなく時間を図る。それだけに全員通り過ぎるまでの時間は意外に長い。


 料理人はたっぷり稼ぐべく、次の鍋のための下拵えを続ける。


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