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朝の仕事から解放されて、街を歩く。
本当は部屋で過ごしたかったけど、こっちの部屋は明り取りの木窓しかなく昼間でも薄暗いし、時間をつぶせるゲームも本もない。
足は自然と街の中心、大穴の方へ向かう。
街の地理は詳しくない。
毎朝の井戸までの往復と、それ以外は冬の間に何度も行き来した兵舎とダンジョン。
飲食店がどこにあるのかもよく分からない。ダンジョンからの帰りに見た屋台がせいぜいだ。
だから、足は自然と街の中心、大穴の方へ向かう。
屋台はダンジョンの近くの通りにずらっと並んでいた。
ダンジョンからの帰りでは屋台通りの中を通ることはなかったので、店の数までは分からなかったが、通りの中に入ってみると客達が持つ武器や防具がガチャガチャとうるさく、まるでお祭りのようだ。でも並ぶ客はごついおっさんばかりで祭りというには華やかさがない。
本の物語だと、女性の冒険者が多く描かれているのに。
そんなことを思いながら、こそこそと歩く。
ごついおっさんばかりで怖い。
見ると屋台で売ってる側もおっさんばかりだ。
この通りにはおっさんしかいないのではと思うくらいのおっさん。
おっさんとおっさんが売り買うめくるめくおっさんの世界。
なんか気が滅入ってきた。
逆にこの通りが一面女性だったら、通りに入ることすらしないだろうが、多少は混ざっていてもいいような気がする。
せっかく通りに入ったのだし、お腹も空いているので、適当な屋台で串焼きを買う。
焼き鳥というよりは、バーベキューの串といった感じの大きさで、1本でも割とボリュームがある。
周りにならってその場で食べ、串は店の脇にある箱に入れた。
野菜の下拵えには慣れたけれど、屋台をするとしたらどうすればいいんだろう。
場所は、勝手に使ってもいいんだろうか。屋台って高いんだろうか。なぜか、場所代を要求するおっさんが脳裏に浮かぶ。
おっさんの仕切りでおっさんが売り、おっさんが買う。
今日はもう帰ろう。




