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荷車を引きながら、数人の男たちが街道をゆく。
春になり、村に帰るその顔は明るい。
荷車には街で買った新しい農具と、塩や砂糖といった調味料、そして布や古着。
あとは個人個人が大事そうに抱えた家族への一品。
冬の間に領主に雇われた給金で、村に必要なものを買って帰る。
そこには無事に仕事を終えられた安堵感が滲む。
村と馴染みの商人には、秋の作物を引き渡したときに、春に買って帰る品々と値段の折り合いはつけてある。
今年は領主からの賃金で十分に賄えたため、わずかながら家族へのお土産も買うことが出来た。
そんな中、一人の少年の顔だけは不満げだ。
帰り道。ダンジョンの中や、宿舎での暮らしを思い出しながらの道行きの会話。
一冬の間とは言え、話題には事欠かないが、共に過ごしていた間柄では知っている話題。
そこで繰り返される少年の失敗談は、きっと村に帰ってからも面白可笑しく吹聴されるのだろう。
それが分かってるだけに面白くない。
追加報酬がもらえず、幼馴染へのお土産が安っぽい髪留めになってしまったことも面白くない。
受け取ってもらえなかったり、笑われたりしたらどうしようかと思うと気が滅入る。
村に帰る男たちの顔は明るい。
一人の少年を除いて。




