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「取れたてのポメロだよ!今朝の取れたてだよ!」
市場に威勢の良い声が響く。
春になって、やっと出回るようになった新鮮な野菜と果物。
まだ数も種類も少ないが、それでも春が訪れた証。
これからは日に日に数も種類も増え、日差しは暖かくなる、それは春の訪れと共に毎年行われている一つの証。
近くの村から運ばれたそれらは、数日でもっと遠くの村からも運ばれるようになるだろう。冬の間、街に留まっていた行商人達も今年の旅を始めだす。
職人達は冬の間に作り溜めた鍋や皿を商人に渡し、代わりに得たお金で春に相応しい新鮮な野菜と果物、そして酒を手に入れては春の訪れを祝う。
並べた果物の半分以上が売れたところで一息つく。
朝から声を上げっぱなしだ。
売っている果物は種類が少ない。
ほとんどは春、というより冬の果物で、農村では家の近くに植えて冬の間の食料の足しにすることが多い。しかし、街で、となるとやはり冬では運んでくる人がいないため、やはり春の果物にあたる。
家の脇にも生ってたな。
村を出て、伝手を頼り、商売のやり方を覚えて何年経ったか。
村を出たと言っても関係が切れたわけではない。
ここで売っている果物にも、生まれ育った村から仕入れたものが多い。特に今日は、村で冬の間の食料として食べていた果物のうち、まだ木に残っていたものを買い取った物だ。運んできたのは幼馴染。
仕入れ先の伝手があるのはありがたいがね。
仕入れだけではない。子供のいない商人にとっては、いずれ村の親戚の子供がこの店の跡を継ぐ。
あと2年もすれば、子供が修行がてら手伝いにくるだろう。
昔、自分も他の商人について学んだように。
ちゃんと仕込んでやらんとな。
先ほど果物を一つだけ買っていった若者の顔がよぎる。
十歳は超えてるだろうに、果物一つ買うのに、銀貨と銅貨の区別もつかない若者だった。
あんなじゃあ、こすっからい商人に会ったら巻き上げられちまう。
自分が心配してもしょうがないか。
商人は休憩は終わりだとばかりに、再び声を張り上げた。




