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 部屋で荷物をまとめる。

 まとめるほどの荷物もないが、わずかな着替えと体を拭く布、歯を磨くための木の枝に、歯磨き粉代わりの岩塩の欠片。

 荷物のほとんどが、ここに来てから支給されたものだが、そのまま持って行って構わないと言われている。


 兵舎の中にある四人部屋。

 同室の三人はもう出発していて、荷物はない。


 ダンジョンの中で泊まることも多く、同室と言うには交流が少なかった気がする。

 それでも多少の話はしたし、行商人だというおじさんからは自分の名前を示す文字や、数字を教えてもらった。

 なんでもこの仕事が終わると給金を受け取り、そこで金額と書類上の金額を確認し、受け取った印に自分の名前を書くのだそうだ。

 他の二人も文字を覚えていないらしく、熱心に覚えていた。


 軽く欠伸をしながら兵舎の入り口へ向かう。

 仕事が終わって気が抜けたのか、眠気が去らない。


 兵舎の入り口はちょっとしたホールになっている。

 多くの場合には外で行うこととは言え、雨の日などはここで点呼や装備の確認を行うことも多い。

 ダンジョンへの出発日などは大混雑だ。だれも雪の舞う外で装備の点検などしたくない。

 そんなホールも今日の人影は疎らで、仕事をしているように見えるのは、机が置かれた周りに詰める数人だけ。


「遅いぞ!早く給金を受けとってサインをしろ!文字が書けないなら拇印だ!」


 こっちにも拇印ってあるんだ。


 折角、名前だけとは言え書けるようになったのだし、指を汚すのもイヤなので、たどたどしい筆跡ながらサインを書く。

 給金の入った布袋は結構重く感じる。問題は価値が分からないことか。


 思い返してみれば、宿での生活も、ここに来てからもお金を使った覚えがない。というより、この街に来てお金を手にしたのは初めてなんじゃないだろうか。

 サインをする前に金額の確認はしたものの、このお金の価値が分からない。


 もう少し同室の商人のおじさんに話しを聞いておけばよかったな。

 荷物の袋の中に、給金を袋ごと仕舞いこむ。


 兵舎の外は無闇に春を主張した暖かい空気が流れていた。

 泊まる場所、探さないと。

 心の中との温度差が酷い。


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