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洗い直している間に夕食の準備をする時間になってしまった。
洗おうとしていた籠には夕食に使う野菜が盛られ、既に洗うことも出来ない。
刃物や皿などの食材を洗った後で使うものだけはなんとか洗う。
汚れが酷く気になる。
水を汲むのは大変だけど、洗わないのは、怖い。
そのまま井戸の側で野菜の皮を剥き、切る。
ふう、と一息。
回りに並んだ野菜で夕食の献立が想像出来るのは、いつも変わらないからだろう。
今日もいつもと同じ、塩味の野菜スープ。それに少し堅いパンがつく。
昔読んだ物語だと、元の世界の知識を生かして料理に工夫したり、内政に意見したりとかあったな。
ここでだって出来なくはないんだろう。知識があれば。
料理なんてほとんどしたこともなかった。
出来上がった形は知っていても、作り方を知っているものなんてほとんどない。
むしろ、物語でよく出て来たマヨネーズとか唐揚げの作り方のほうが詳しいくらいだけど、それだって細かい手順まで描写されているわけでもない。
油を使う?それは何の油なんだろうか。スーパーには何十も油の瓶が並んでいたけれど、区別がつかない。
ジャガイモで農業発展?ジャガイモはジャカルタから伝わったからジャカルタイモ、それが短縮されてジャガイモとか読んだ覚えがあるけど、まあジャカルタはいいとしても、こっちにもジャガイモはあるんだろうか。キャベツなのかレタスなのかわからない葉野菜とか、カブなのか大根なのかわからない根野菜はよく切っているけど、ジャガイモを見た覚えがない。この辺りにはないのだろうか。
野菜の下ごしらえは終わったけれど、次にやるべきことは見つからない。
日の光は青から赤へと、誰にも気が付かないようにと、こっそりと色を変えていく。
それをただ、眺めていた。




