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「誰がやりやがった!」
一言叫んで男は走り出す。
今日も肉屋ギルドの数人で街へ犯人探しに出ている途中だった。
露天商を睨み、冒険者を脅して手掛かりを集めようとするが、もう何日も無駄足に終わっている。強引なやり方が過ぎて、兵士に止められることもしばしばだ。
今日もそうやって手掛かりを集めようとしていた。
もちろん手掛かりはまったく集まらない。元々、目撃者が一人しかおらず、その目撃者もマスクを付けていたことしか覚えていない。
目撃者に話を聞き直すのは兵士も行っているし、周辺への聞き込みもそうだ。
呪いが蔓延している中で、人通りが少なくなっていることもあり、未だ見つからない新たな「目撃者」は都合の良い空想でしかない。
今日も無駄足に終わった犯人捜しを終わり、肉屋ギルドに戻ろうかという時に、空に煙が上がっているのが見えた。
方向は肉屋ギルド。
だが、それだけならば慌てるような問題ではない。
肉の保存のために、燻製を作るのも肉屋ギルドの仕事の一つだからだ。
しかし、最近は冒険者が肉を売りにくることもなく、保存に肉を加工する必要もない。
そして、煙だけではなく、火が上がっているのが見えたのだ。
そして男は叫び声を残して走り出す。
男の目には、その火事は、自分を襲った誰かと同じものに感じられた。
肉屋ギルドの面子にかけて、火を付けたやつをぶちのめすのだと走った。
そして肉屋ギルドは燃えていた。
周囲の店と同じように燃えていた。
近くの店の者なのか、荷物を抱えて火から離れようとする者。
水桶や、建物を引き倒すためのカギ付きの長柄を持って火消しに集まる者たち。
そして、それよりも多い野次馬。
そんな野次馬の中に、マスク姿の冒険者がいたのは偶然だろう。
「てめえか!」
しかし男は勘違いした。
自分を襲ったマスク姿の奴が、肉屋ギルドに火をつけて見物していると、確信した。
走ってきた勢いに任せて冒険者を殴る男。
不意打ちを受けた冒険者は吹き飛ばされたが、それで大人しく終わるわけではない。
「なにしやがる!」
立ち上がり、殴った男を見定めると仕返しとばかりに殴りかかる。
二人が殴り合っているのを見て、遅れて到着した肉屋ギルドの男たちも参戦する。
野次馬が止めようとして殴られる。
火消しが出来ないほどの乱闘が始まった。




