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蝙蝠は美味しかった。
姿焼きではなかったから食べれたとも言えるが、最近は肉を食べることがほとんどなくなったせいか、やけに美味しく感じた。
食べた後で、伝染病の媒介がどうのという本を思い出したが、その本には豚だの鶏だのも載っていたのを思い出し、諦めた。
だが、もし病気に罹ったらどうなるんだろう。
この街に来てからは風邪も引いてないので、病院とか薬のことはわからない。でも、街中の汚さを見る限りでは衛生観念だとか医療保険だとかがあるようには見えない。
そんなことを考えると、じんわりと、怖い。
病気の予防はなにをすればいいんだっただろう。
乾布摩擦?
むしろ風邪をひきそうだ。
ビタミン?
野菜なら沢山食べている。むしろ食べないと他に食べる物がない。
適度な運動?
筋肉痛は適度ではないが、逃げる口実が思い浮かばない。そして他の人が普通に訓練しているのが不思議でしょうがない。
何も対策らしきものは思いつかない。
でも、衛生と言えば、異臭の耐えない街中よりもダンジョンの中のほうが清潔に思える。
地下なのだから、もっと空気が濁っててもおかしくないように思うが、火を炊いても危ないとは思わない程度には空気が流れている。それは広さのせいだろうか、それとも入り口の大穴以外にも空気の通り道が沢山あるのだろうか。
風邪のような近くにいることで起きる感染も怖い。が、マスクなんてこの街に来てからは見た覚えがない。少なくとも花粉90%カットだのPM2.5対応と銘打ったものは売ってないだろう。
となると昭和だか明治だかを舞台にしたドラマであった、布で口と鼻を覆う感じの三角の布か。どの程度の効果があるのかは知らないけれど、火災からの避難で口にハンカチを当てろというのと同じだろうか。病気予防とは随分イメージが違うな。
空気感染、飛沫感染、あとは感染経路ってどんなものがあっただろうか。
ああ、そうか、接触感染。ドアノブみたいに沢山の人が触る場所は、そのうちの誰かの手にウィルスがついていたら、触った他の人の手にもうつる、というやつだっけ。他にも食べ物からうつるというのもあったはずだけど、名前は覚えていない。
ぼんやりと思いながら食器を拭く。
そういえば木の器ばかりで、陶器や金属の食器は見ないな。武器防具は金属だし、レンガっぽい家もあったから作れないわけじゃないんだろうけど。
パンなんかの手づかみで食べるものが大半で、木の匙を使うのはスープくらい。
手を洗うのは汲み置きの水を使うしかないから、ちょっと面倒だ。蛇口を捻れば水が出た生活が懐かしい。
調理と言っても下ごしらえの大半は、土のついた野菜とか根菜を扱うから、別に手を洗うわけではないし、下ごしらえが終わってから仕上げの前に一旦洗うくらいだからいいけど。
そう言えば、手洗いの桶って調理班のところでしか見た覚えがないな。
他の兵士は食事前の手洗いとかどうしているんだろう。




