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「直談判なんて無茶だ」

「だったら、このまま死ねってのか!」

「そうは言ってない、あの文官が話を付けるってことだっただろ」

「じゃあその文官はどこだ! もう何日経っている!」

「しかし……」


 兵舎の一角から言い合う声が聞こえる。

 兵舎で呪いに倒れた者が出たことで、巡回兵の復帰は遠のいた。

 やっと気持ちに折り合いがつき、訓練を再開したばかりの時に起こったことが原因だ。こともあろうに兵舎の中で呪いに倒れる者が出た。

 街の中を見回っている兵士にとっては、見慣れた風景だ。ついに兵士の中にも、という、ある意味あきらめに近い感情こそあったものの、動揺は少なかった。

 一方、ダンジョンで何も分からないまま仲間が倒れた、その経験をしてきた巡回兵の動揺は大きかった。

 倒れた仲間の口から噴き出した霧のような魔物。それが街に追いかけてきたように思えたのだ。それを見たわけではない。兵舎で倒れた兵士の口から飛び出てきたのを見た者はいない。

 それでも恐れる気持ちが治まらないまま、巡回兵の隊長は言葉を吐き出す。


 以前に、文官から提案された言葉。「ダンジョンの閉鎖」、それさえも今では十分ではない。それだけに、「せめて」閉鎖をと願う。願わざる得ない。

 それなのに、それを提案した文官の姿は見えない。

 ガチャリ、と音がして扉が開く。

 兵舎に入ったきたのは文官。しかし、探している文官とは別人だった。

 忌々しい顔。

 そう兵士達に記憶されているその文官は、ダンジョンから戻ってきたばかりの時に追い払われてから、兵舎に顔を出さずにいた文官だった。


「あ、新たな指示が下った」


 指示書なのか、紙を盾のように掲げて文官はわずかに足を進める。


「の、呪いの元凶たる霧の魔物、レイスを討伐せよとのご指示だ」


 怒号と悲鳴が響いた。


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