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閑散とした商業ギルドは、既に閑散としているのが当たり前かのように、そこにあった。
それでもわずかなに、声の聞こえる部屋もある。そこで交わされる言葉は、決して色よいものではなかったが。
「どうするんだ。もう手がないぞ」
「確かに、困ったものです。周辺の村人までが街を避けるようになるとはね」
「おいおいおい、冷静に言ってる場合じゃないだろ。村の作物は持ち込まれず、市場に並ぶのは村まで直接買い付けに行った露天が僅かばかり、そうでなくても街間の荷運びの手が足りなくて、塩でさえ十分な量を運べてないんだ。ギルド員に払う給料だって、何もない所から湧いて出るわけじゃないんだぞ」
体重を預けた椅子が、ギシリと音を立てる。
「とは言え、手の空いたギルド員は、既に荷運びに回しています。あとは、そうですね。肉屋ギルドはどうです。あちらも最近は閑古鳥でしょう。荷運びに使えるのでは?」
「肉屋ギルドはダメだ。あいつら、この前の強盗騒ぎからこっち、犯人捜しばかりしてやがる。冒険者だけじゃなく、露天の店主にまで突っかかってきやがって。兵士が止めに入ってるんだ。とてもじゃないが仕事なんて回せん」
周りが静かなせいで、話声が良く響く。ギシリギシリという椅子の音も。
「長屋の冒険者達は、まだ兵士に抱えられたままでしたか」
「そうだ。ついでに言えば、他の冒険者はいつも以上にダンジョンに潜ってるよ。野菜が高いからな」
元から大半の冒険者は魔物を狩って、肉と皮を売って暮らしている。
食べ物が高くなったなら、今までよりも多く狩らないと暮らしていけないし、それ以上に高くなったなら、狩った肉を売らずに食べて暮らすようになる。
冒険者が直接露天で売れるなら、他の食べ物の値段に合わせて肉の値段も上げれば良いが、間には肉屋ギルドがいる。高く買ってくれと言われて応じるかどうかよりも前に、前の強盗騒ぎから両者の仲は険悪だ。
冒険者が活発に狩りをするのは良いが、市場には一向に肉が出回らない。肉屋ギルドが騒がしくしている間は、わざわざ売りに行こうという冒険者もいないだろうし、当分は肉は市場から消えたままだろう。
「……潮時でしょうか」
「あん?」
「いえ。では荷運び人の募集を村で行いましょう。例年なら街へ出稼ぎに来る者や、村を出て冒険者になる若者がいるはずです。それを荷運び人として雇います」
「ふむ。どう話を通す」
「村へ直接買い付けに行っている露天の店主から話を通しましょう」
閑散とした商業ギルドには、二人の話声だけが響いていた。




