174
「私だ、取次を頼む」
館の門でそう告げるも、下男の動きが悪い。
いつもならさっさと門を開いて通すのに、確認してきますなどと言って待たされる。
下男の顔に、見覚えはある。新しく入った不慣れな下男というわけでもないし、なにを手間取っているのか。
やっと門を通されて、館に辿り着いくと、館の前には執事の男が待っていた。
あの方に長年仕えている執事は私よりも随分と年上だ。初めてあの方にご挨拶した時もいた執事だ。新人の頃の失敗も知られているから、少しやり辛い。
「あの方はどちらにいらっしゃる。ご報告がある」
報告とは他でもない。兵士達をこちらに引き込んだという報告だ。これで、あの方は兵士の戦力を背景に、領主様にダンジョンの閉鎖を迫ることが出来る。
領主様は認められていないが、ダンジョンから呪いが噴き出しているというのは周知の事実だ。
兵士達が呪いの原因を討伐出来ればまだ方法はあったが、何人もの犠牲を出して逃げ帰ってくるようでは、ダンジョンを閉鎖する以外に手はない。
「その前にご連絡があります」
執事は私を案内もせずにそう言う。
こちらは兵士を取り込む中で、兵士の不安を煽ることで引き込んでいるのだ。あの方の指示とは言え、早く領主様と面会して頂かなければ、兵士達の暴走もあり得る。
執事の顔を見る。
いつの間にか老けたか、いや、疲労だろうか。記憶にある顔よりも何年も年を取ったように感じる。
嫌な予感がする。
執事が私に話などと。あの方が急用で出掛けたとでも言うのだろうか。そう思えば門にいた下男の戸惑いも分かる。居なくなった主人の元への面会だ、面倒なことになるだろう。
しかし、早く面会して頂かないといけない時に限ってどういうことだ。今日、伺うことは連絡していたはずだが。
「なんだ、手短に頼む」
とは言え、まずは執事の話を聞かなくては、戻る時間によってはこのまま待たせてもらったほうがいいかもしれない。
「旦那様が亡くなられました」
それはあまりに予想もしなかった言葉。
何かの聞き間違えたか。何か近い言葉があっただろうか。この場に相応しい別の言葉が。
頭の中をぐるぐると回る言葉に、私は何も出来ないまま、そこに立ち尽くした。




