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「なあ、お前ん所、冒険者に伝手があるんだろう?」


 近所の奴がそう言って訪ねて来たのは、酷くマズイ話だった。


「んなこと出来るわけないだろうが」


 言われたのは、冒険者から肉を買いたい、だった。

 この街の肉の売買は肉屋ギルドが仕切っている。冒険者が狩って来たものは、一度、肉屋ギルドで買い取って、それを販売するのがこの街のルールだ。


「肉屋ギルドを敵に回す気か」


 この革加工ギルドは、ある意味、肉屋ギルドと同じだ。

 冒険者が狩ってきた皮は、一度、皮加工ギルドで買い取って、ギルド員の職人達が革に加工する。肉屋ギルドとの違いなんて、加工しないものを売るのかどうかくらいなものだ。


「そこまで大げさな話じゃないんだ。今は、ほら、高いだろう。うちで食べる分だけでいいんだ。誰か紹介しちゃくれないか」


 無茶を言う。


「あのな。今は肉屋ギルドもピリピリしてるんだ。下手に目につくことをしてみろ。見せしめにされるぞ」


 肉屋ギルドの奴が、誰かに襲われたと言って犯人を捜しているが、何日経っても捕まったという話は聞かない。

 逆に、それが元で、冒険者の連中は肉屋ギルドに近寄らなくなり、市場でも露天でも肉が出回らなくなったと聞いている。


「や、だからそんな大げさな話じゃ」


 一向に分かってない近所の奴に警告を込めて話をする。


「大げさでもなんでもなくても、そうなるんだよ。もし、俺が今の話を肉屋ギルドに持ち込んで見ろ、お前、明日には血塗れで転がることになるんだぞ」


 俺の言葉に青ざめる。


「黙っててやるから、もう言うな。忘れろ。それはやっちゃいけねえことだ」


 青ざめた顔のまま、そいつはそそくさと店を出ていく。


 皮なら、加工しなければ使い物にならない。服でも、靴でも、皮を革にしてからが本番だ。だから、革加工ギルドを通さずに売り買いしようとする奴はいない。

 肉屋ギルドは、やってることは革加工ギルドと似てはいるが、肉の加工は日持ちさせるためのものがほとんどだ。別にギルドを通さなくたって、肉は焼いて食える。

 肉屋ギルドは、利権を守るために、領主様に働きかけてその権利をもらったと言うが、街の全員がそれを知ってるわけじゃない。特に、街の外から来て冒険者になる奴らはそうだ。その結果、肉屋ギルドは、時には実力で権利を守るようになった。


 先輩の冒険者から言い聞かせられたり、革加工ギルドで俺が話をしたりで、決まりを守るように伝えてはいても、肉屋ギルドの制裁を受ける奴がゼロだとは思えない。

 たまに新顔の冒険者が路地裏で転がっていることがある。

 どこまでがただの喧嘩か分かったもんじゃないんだ。

 いくら市場で手に入らないからって、直接の売り買いをさせるわけにはいかない。

 ましてや、俺の仲介でだと? 勘弁してくれ。


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