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羽をざっくりと切り落とし脇によける。
食べても旨くないし、焦げる寸前まで火で炙らないと噛み切れない。料理には使わずに、素材として後で骨を取って綺麗になめせば皮職人に売れるだろう。
頭を落とし、腹を割いて内臓を取り出す。頭と内臓は使い道がないのでそのまま燃料代わりに火にくべる。
残った胴体部分が食料だ。
羽を伸ばせば大きく見えるが、ここまで切ってしまうとほんのわずかな身しか残らない。
「まぁ、食事に肉がついただけ、上等だな」
内臓を取った切れ目から皮を剥ぐ。多少残ってもかえって食感に違いが出ていいくらいなので、剥ぎ方は大雑把だ。
調理用の鉄串を2本。何羽かの蝙蝠を横からつなげて刺し通す。
通した鉄串をそのまま、焚き火の直ぐ脇に刺す。
後は焼けるのを待つだけだが、蝙蝠はあくまで臨時のおかず。
本命のスープは大きな鍋に入れて焚き火の上だ。
中の水が沸騰するのを待ってから、切っておいた材料を順番に入れよう。初めに入れる火の通り難い野菜は自分で切ったから問題ないが、二番目に入れるのはさっき蝙蝠を仕留めた少年の根菜だ。あまり急ぐと材料が届く前に入れるタイミングになってしまう。
ちらりと少年の方を見る。
まだかかるな。
急ぐ必要もないとは分かった。
あまりのんびりしても食事の時間に間に合わなくなるが、少年を急かすかと思いもしたが。
「構わんか」
独り言を呟いて蝙蝠の位置を調整する。
こちらも時間が延びると考えれば、火から多少離したほうがいいだろう。
肉は獲物を仕留めた奴が優先だが、蝙蝠はほぼ調理班のものだ。
雑食の蝙蝠は何でも食べるが、上から急襲して獲物を浚っていくという狩りの方法から、食べ物が剥き出しになっているところを狙ってくる。
当然それは食事の準備をしている調理班が標的だ。
他の兵士達のところにはまったくと言っていいほど姿を見せない。
たまに小腹が空いた兵が、携帯していた干し肉を取り出したところを襲われるくらいだ。
油断していい相手ではないが、大きな被害が出ることは滅多にない。
「蝙蝠に目玉を取られるぞ」という言葉は油断を戒める言葉として使われてはいるが、実際に目玉を取られた人間など聞いたことがない。




