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「領主様、資料が見つかりまして御座います」

「よくやった、見せろ」


 巡回兵が、ダンジョンから逃げ帰って来た後のことだ。

 呪いの元凶を討伐するようにと、ダンジョンに入る命令をしたが、兵は従わなかった。

 本来ならば隊長を懲罰の上、街から追放、新しい隊長によってダンジョンに入らせることになる。

 だが、命令を伝えに行った文官や、他の部隊の隊長からの声を聞き、一旦は思い止まることにした。


 曰く、ダンジョンから帰ってきた兵士達は恐れ慄き、まともに戦える状態ではない。

 曰く、何に襲われたのか、それすら分からないままでは、討伐することは不可能だ。


 そうとなれば、兵の派遣よりもまず情報が必要になる。

 隊長たちには、兵の復調を言いつけて、文官達に情報を集めさせた。

 冒険者への聞き取り、他の街への手紙、そして書庫に納めされている古い資料の調査。

 今でこそ、ダンジョンは浅い層で肉を狩るものたちが大半だが、ダンジョンが発見された当初は、ダンジョンの奥深い所まで乗り込んで宝を探す冒険者が後を絶たなかった。

 そのほとんどはダンジョンから帰らず、生き残った者の中でも、宝を手にしたものは極わずか。

 当初こそは熱狂的に迎えられたダンジョン探索も、少しずつ、日々の糧を得るための狩場となった。

 だが、その折りに遭遇した魔物の種類や、戦いについては多くの文献が残った。

 なぜ文献を残したのか。

 ダンジョンからもし魔物が溢れて来た時に対抗するためのものなのか、それとも、当時の領主もまた、ダンジョン攻略を目指していたのか。

 そこまでは記されていない。

 だが、かつての情報に、兵達が逃げ帰るに至った理由が残されていないのか、古い資料を調べさせていた結果が出た。


「レイス、というのか」


 そこに記されていたのは、霧のような魔物の情報。

 空を漂い、生き物に()りつき、命を吸いとる魔物。


「やはり、呪いの元凶は魔物か」


 それは街に広まる呪いと同じものに見えた。

 ダンジョンで兵士が出会った魔物は、人知れず街にも現れて呪いを振りまいているのだと思えた。


「魔剣や聖剣の類で切れば消滅する。鉄の武器では滅すること能わず……」


 数度、繰り返し読んで確認する。


「つまり魔法ならば倒せるということか」


 この街にも魔法使いは居る。

 領主が雇っている魔法使いも居る。領主が雇っているのは、主に魔法の研究に従事している数人で、万が一の時の戦力でもある。しかし、街中どこに現れるかもしれないレイスを相手にするには少なすぎる。

 街中の魔法使いを徴兵するかと、領主は一人考える。

 しかし、かつてのダンジョンの奥まで挑む者達が大勢いた時代とは違う。戦えるだけの魔法使いが、この街に何人いるものか。


 領主は文官達と方策を練る。

 少ない魔法使いで、どうやって呪いの元凶と戦うか。いや、魔物の元にどうすれば魔法使いを送り込めるのか。

 その話し合いは、街の中では霧のような魔物を見たものが居ないにも関わらず、熱心に続けられた。


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